「……久保田さん」
私の目の前に、久保田さんがいた。戸惑いながら久保田さんの声がした。
「…花野さん。どうしたんですか」
責めることもなく、怒ることもなく。
いつもと同じ声で私に話しかけてくれた。
それが嬉しくて、顔がにやけそうだった。
「…えーと、久保田さんに礼を言いたくて」
車いすを動かしていた両手が汗ばみ、緊張をしていた。下に俯き、久保田さんの目を見れなかった。
「…そうでしたか。ありがとうございます。花野さんが私に礼を言いたくて行動してくれたことに嬉しいです。でもね、花野さんはまだ本調子じゃないんだ。だから、こういう行動は控えるようにね」
久保田さんは私の目線と同じくするために、膝を屈んで、私を見て話してくれた。
嬉しい。嬉しいのに、なんでこんな悲しいんだろう。
私は地味で冴えなくて、本を読む以外、何も取柄がない。
胸元まである長い黒髪で、目が細くて、体型は太っていなく、細くない。普通の体型なのだ。

