「立売堀(いたちぼり)さん、大丈夫?」

 ぐったりしている早苗に、後部座席で隣に座っている一口(いもあらい)は声を掛けた。しかし返事がない。

「酔ったのか?」

「うーん。そんな感じじゃないっぽいんだよな」

 伏せている顔を覗き込む。

 辛そうな表情をしているのかと思いきや、まばたきもせず糸の切れた人形のように微動だにしない早苗にゾッとして目を反らした。

「お? 球場だ」

 俺の言葉に一口は顔を上げて目を輝かせた。

「行こうぜ」

 こんなときでなければ堂々と入れない。

「いいね」

 モリスは入り口に車を止めてショットガンを手に取りドアを開いた。俺たちも金属バットやらバールやらを持つ。

「なに? 野球場?」

 早苗がいつもの笑顔で問いかける。

 さきほどの様子を見ている一口は、一種異様なものでも見るような視線を向けた。