あれから新谷との付き合いも、御堂との関係も平行線のまま月日は流れ、クリスマスも目前に控える12月。
莉子はこの日も懸命に仕事励み、『Anna』のお菓子を買い求めるたくさんの人々に笑顔を届けていた。この日もいつものように接客の傍ら、試作品の開発に精を出していた。
お昼を過ぎて一旦客足が途絶えた頃にお店の脇で一休みしていると、またお店の扉が外から叩かれた。すぐに切り替えて来客を迎え入れると、莉子は久しぶりに会う同僚の姿に目を丸めた。
莉子に手を振りながら、冬用のコートにマフラーを首に巻いた宍戸は、二ヶ月前に寿退職した元『Anna』のスタッフだ。
しばらく会う機会はなかったが、一緒に働いていた頃の世話の焼ける同僚から、すっかり既婚者の落ち着きが窺える。宍戸の大人の雰囲気に、莉子は少し圧倒された。
「久しぶりだね、しーちゃん! 新婚生活はどう?」
「やっと落ち着いたって感じかな。もうすぐクリスマスだし、ここで予約しようと思って来てみたの。みんなの顔も見たかったしね」
生憎店長はこの日は休みで店にはいなかったが、出勤していた同僚達との話に花が咲いた。
話が落ち着いたところで各々が仕事に戻る中、莉子はふと宍戸に呼び止められた。
「聞いたよ。莉子。同棲中の彼氏のこと。色々話したいこともあるし、この後空いてるなら、二人でどこか食べに行かない?」
あと一時間で仕事も上がる予定なので、気晴らしということにして莉子もその誘いを受けた。