『ちーちゃん。』
俺は彼女のことをそう呼んでいた。
中山 千紗、という名前だからちーちゃん。
俺だけが彼女のことをそう呼んでいる。
そしてちーちゃんは俺のことを和くん、と呼んでいた。
久しぶりに電車で会ったちーちゃんは相変わらずで、早く俺の存在に気づいて名前を呼んでほしい。
ちーちゃんの声が聞きたい、と俺は思っていた。
そしてやっとちーちゃんが電車に乗って俺の方を見て目が合った。
その時、時間が止まったかのようにさえ思えた。
俺は待ちきれず、ちーちゃんの方へ歩み寄り、名前を呼ぼうとしたら…………
「………は?」
ちーちゃんは目をそらした上に急に電車を降りだした。
まだ高校の最寄じゃないのに、だ。



