「あ、あの…朱雀、くん」




「何?」




「手…」





「…嫌なら離すけど」








立ち止まって振り向いた朱雀くんの顔が、少しだけ不安そうに見えた。




…何で、そんな顔、するんだろ。





別に、嫌じゃない…けど…。









…そういえば、こんなふうに手を繋いで歩くのなんて…家族や咲楽くらいしかいなかった…。




…誰かと、手、つなぐの…久しぶり、だな。







「…楠木?」


「ふぇっ」






突然話しかけられて、変な声が出た。…凄く、恥ずかしい。





……なんで今、呼ばれたんだろう。


尋ねるために朱雀くんに目を向けると……何故か、顔が固まっている。




…?

…どうしたのかな…。








「…えと、朱雀、くん?」



「…っ、あぁ…悪い」




はっとしたように、朱雀くんがこちらを見た。


…そのままじっと、こちらを見ている。






…な、なんでずっとこっち見てるんだろう…。


…な、何かしたっけ…?












ーーー嫌なら離すけど
















…あ。





「…朱雀くん」





…もしかして。










「嫌じゃ、ないよ」








真っ直ぐ目を見て、そう答える。

すると、朱雀くんはほっとしたように息をつく。






そして……ふわっと、柔らかく笑った。




「…そう。なら良かった」









…今つないでいる手と同じくらい、暖かい声を聞いて。


穏やかで、優しい笑顔を向けられて。






何故か、顔が熱くなった。


……私の心臓が、きゅう、と絞られるように……苦しくなった。






少し、心臓が痛かったけど……それが嫌だとは、思わなかった。