生徒会が終わったのか、ちらほらと人が下駄箱に集まってきた。




私の存在には、気づかれてないみたいだけど…別にいいか。





…来ないな。



…帰っちゃったかな。







そう思っていると、見覚えのある後ろ姿が出てきた。

…朱雀くんだ。


急いでその後ろ姿に声をかけた。





「あ、の…」




振り返った彼は、私を見ると少しだけ目を見開いた。

…やっぱり、変に思う、よね。
でも……どうしても、言わなきゃならないって……思ってしまったから。






「…どうしたの、楠木」


優しい、声。

どことなく目元も、教室の時より、柔らかい



…なんでだろう。……でも、嬉しい。





「え、えと…」




…は、早く言わなきゃ…。

…朱雀くん、待たせちゃ、ダメ、だって…。



グッと力を入れ、彼の目を見た。

朱雀くんは、さっきと変わらない穏やかな表情で、私を待っててくれた。


少しだけ、深呼吸をして、言おうと思っていたことを口に出した。









「…こ、怖くない、から」

「…え」




朱雀くんは、キョトンとしたように首を傾げた。

……多分、一体何のことか分からなくて、混乱してる……。


も、もう一回…ちゃんと、言わなきゃ…。









「朱雀くん、のこと、怖くない、から」






…何、とか……い、言えた…。

朱雀くんが少し、目を見開いたように見えたけど……これ以上は、緊張して……もう無理…。




「…そ、そういうこと、だから、それじゃ…また、明日…………っえ」




くん、と袖を引っ張られた。

驚いて、袖を引っ張った彼の顔を見上げる。

……あれ?


朱雀くんも、びっくり、してる?









「…また、明日」







朱雀くんは、少し緊張した顔でそう言った。





…また、明日も、こうやって、話していいの?


…なんでだろ。


嬉しくて、顔、緩む。


はにかんで朱雀くんのほうを見ると、彼は、教室での無愛想さが嘘のように……照れくさそうに、笑っていた。