「やっぱり怯えられてるじゃんかー」



「…うるせぇ」



…怯えさせたくてさせてるわけじゃねぇよ。


あからさまにからかっている晴人のニヤつき顔にデコピンをかましてやりたくなった。




「朱雀くん相変わらず無愛想ねー。うちの明、怖がらせないでよ?」



「…」



神崎の苦笑しながらの言葉を聞いて、俺は目の前に座るやつを見る。


…縮こまって、居心地が悪そうに視線をさまよわせていた。

……だから、好きでさせてるんじゃねえっつの。
俺は内心でため息をつき、視線を落とす。





「…あ、あの」





…何故か目の前のやつに、声をかけられた。

控えめで、あの女子達みたくキーキーしない、どこか柔らかい声。

呼ばれるままに顔を上げると、目の前のやつは、ほんの少し肩を跳ねあげた。




「え、えと、その…」



言うことが思いつかないのか、三度視線をさまよわせている。


…無理して声掛けんなよ、怖いなら…。




何故かそんなことを考えてモヤモヤする。



……モヤモヤ?


いや、たとえこいつに怖がられてたとして、俺が気にするようなことなんて、何も……。





「…朱雀くん」





急に、小さくとも、はっきりとした声が聞こえて、改めて目の前のやつの顔を見た。



「…さっき、は、ありが、とう」



途切れ途切れだったが、確かに聞こえた。



…さっき。



…写真と生徒手帳、取り返した時のか?




「…気にしなくていい。あれ、大事なもの?」



そう言うと、目の前のやつは目を伏せる。

…その様子が何故か悲しげに見えて、内心で若干焦っている。



「…家族の写真。あれ一枚しか、ない、から…」




…予感的中。


まずいことを聞いてしまったかもしれない。