…どうしよう。
校舎内の廊下を、小走りで移動する。
移動しながらも頭を占めているのは、さっき気付いた失態のこと。
生徒手帳が、ない。
あの中には、祖母がくれた、昔一度だけ撮った家族全員の写真が、あるのに。
…失くして、しまった。
…生徒手帳に、入れるんじゃ、なかった。
涙が滲んでくるのを抑えて、教室へ、急ぐ。
ガラッッと扉を開けると、全員の視線がこっちを向いて、息が止まりそうになる。
……怖い。
でも、ちゃんと、言わ、なきゃ。
「…遅れて…すみません…」
教室を見渡し、自分の席を探す。
すると、こちらを向いている人のうち、左から二列目の一番後ろ。
そこに座っていた人の左隣が、空いている。
出席番号からいっても、そこで間違いないみたい。
私はそこに歩いていくと、椅子を引いて座る。
すると途端に、何故か辺りがざわついた。
驚いて、顔を上げると、隣の人と目が合う。
黒髪のアシンメトリー。(前に咲楽が言ってたような…)
すっと通った鼻筋。
涼し気な目。
いわゆる、イケメン…?というやつ。
座っていても、背が高いのが分かる。
…それとさっきから、何故か女子達の視線が痛い気がするけど………気のせいかな…。