『おい』

俺がそう声をかけると、彼女は振り向く。
今日も綺麗だった。

『悪い、待たせた。これ、お前のぶん』

ヘルメットを脱ぎ彼女に近寄り、もうひとつのヘルメットを手渡す。
彼女は手に取ると戸惑った表情を見せた。

『被って後ろに乗れ』

『え!?』

そうか、お嬢様はバイクの後ろになんか乗ったことないよな。
そりゃ戸惑うか。

『いや、私は…』

『何くずぐずしてるんだよ、行くぞ』

俺は彼女の右腕をとり、強引に引っ張っていく。
ずっと楽しみにしていたんだから、お前に断る権利はないんだからな。

『ちょっ…どこいくの?』

『さあな』

俺は彼女にヘルメットを被せ、バイクに乗せる。

『しっかりつかまっとけよ』

そう言ってすぐ、バイクは発進させた。
すると彼女は俺の身体に手を回した。

か弱い力で懸命にしがみつこうとする環。
背中に彼女の胸があたってドキッとしたが、そんな感情を振り払い運転に集中する。

俺達は夜の道を走り抜けていった。