最近、妙に3年生にぶつかられる。私は明らかに避けてあるいているのに、まるでわざとのようにぶつかってくる。それにその度に睨まれたり舌打ちされたり...ほんとに困る。
「(多分、遠藤くんのこと好きな人たちなんだろうな...)」
まえの白石さんたちは後輩だったからいいけど、次の相手は先輩だ。
先輩となっては遠藤くんにもどうにもならないだろうし。きっと今回こそ、年上らしく引いてくれる。我慢すればいいだけの話だよね。
...でも、ぶつかってくるだけじゃ、あの人たちの気は済まなかったみたい。いつも通り、最近バイトが忙しい未奈乃とばいばいして、昇降口で靴に履き替えようと思ったとき。
「あれー?もしかして松永苺花ちゃんじゃなーい?」
「...はい、松永苺花です」
「あはは、ちょっと話したいことあるんだよね。もちろん来てくれるよね?」
胸が大きくてセクシーな先輩は、胸ポケットから私に向けてカッターをチラつかせた。
怖すぎでしょ。銃刀法違反じゃん。
腕を掴まれて連れてこられた、1階の3年生がよく使う女子トイレ。
目の前にはたくさんの3年生。迫力ありすぎ。怖すぎ。
「あ、あの...なんですか?」
「なんですか、じゃないよね?」
「あんた、遠藤智樹にどれほどの数のファンがいるのか知ってんでしょ?」
「し、知ってます...」
「でもあんたは智樹に対してそういう気持ちないんでしょ?」
「はい、ないです」
「じゃあなんであたし達に当てつけるように、教室でいつも寝てる智樹とイチャイチャしてんのよ!!」
どんっ、と肩を押され、壁に打ち付けられる。突然だったから、思わず声が出てしまった。
「っう...」
「ねぇ、あんた分かってないだろうから教えてあげる。智樹はあたしのモノなの!まだあの子はあたしの魅力に気付いてないだけ。卒業までにあの子はあたし無しじゃ生きられなくなるの!」
「だからあんたみたいな地味っ子が遠藤に近づくと、真琴(まこと)のモノが汚れるんだよ!」
「そうよ!いい加減にしなさいよ!」
「っ...遠藤くんは、モノじゃありません」
「口答えするな!!」
さっきから遠藤くんはあたしのもの、と言い張っている真琴先輩は、胸ポケットからカッターを取り出すとおもむろに刃を出し、私の首に当てた。
「余計なこと言ったらどうなるのか分かってるの?先生たちはとっくにあたしの虜だから、カッターについて何か言ってもムダよ」
「...私、先輩に当てつけるために遠藤くんと仲良くしてる訳じゃありません」
頑張れ私、まだ言える!
「口答えするなって言われたの、分かんねぇの?」
ドスッ
「いっ...!」
いきなり横から足を蹴られてバランスを崩し、その場にしりもちをついてしまった。
「とにかくあんたは、明日から智樹に対して冷たく接すること。あんたさえいなくなれば、智樹は確実にあたしのとこに来るの。出来なかったら...その綺麗な首、このカッターで傷モノにしてやるから」
「真琴、こっわ〜」
「こんくらいしないとやらないでしょ?」
3年生は笑いながらトイレを出ていった。
さっきの衝撃で足をくじいた私は、うまく立てずにしばらくその場に座り込んだ。
「(...遠藤くんのために、耐えなきゃダメだ...)」
運悪く、明日は日直。少しでも彼と接する機会を減らさないと...。きっといつも、どこかで私と遠藤くんのことを見てる。
きっと、私みたいなのと話すより、あんなに綺麗な先輩に好かれる方が遠藤くんはずっとずっと幸せなはずだから。私が、我慢すればそれでいい。
「...少し、落ち着いたら帰ろう」
時間なんて気にしないで、ただひたすら座り込んでぼーっとした。あまり使われないトイレのため、床が綺麗で本当に良かった。
どれくらい時間が経ったかな。スマホを開くともう7時を過ぎていた。
「(あー、今日、自転車できちゃった...)」
おそらく右足はくじいてしまっているし、自転車をこぐには少し条件が悪い。まあ、乗ってきちゃったからには、乗って帰らないといけないんだけど。
昇降口を出て自転車置き場に行くと、遠藤くんが自転車を取り出していた。
「あっ、遠藤くん!」
「...松永」
自転車置き場はぐちゃぐちゃで、遠藤くんはそれを直していたようだった。
他愛のない会話をして、そろそ帰らないとやばいと思ったとき。
「送っていくか?」
ドキッとした。すごく嬉しかった。でも、もう私にはそんなことは許されない。
「えっ、大丈夫だよ!」
遠藤くんと仲良く話せるのはこれが最後だから。なるべく明るく振舞って答えた。でもそんなときに限って思い出してしまう、数週間前の夢。
「(これだけ、話したい!)」
「あ、遠藤くん、待っ...」
右足のことを忘れていて、思いっきりこぎ出して痛みが走り、転んでしまった。
でも、遠藤くんが私に微笑んでくれた。もう、それだけで満足だった。
「(あーあ。数週間前の自分に言いたい。私...遠藤くんのこと、好きになっちゃってるよ、って)」
気付かないようにしてた、自分の気持ち。もう遅いときに溢れてしまった、自分の気持ち。
ねぇ、遠藤くん。最後に笑顔が見られて私は本当に幸せなんだよ。
せめて、これからは名前で呼ばれたい。...なんて、名前呼ばれることも、もうないだろうけど。
「じゃあ、また明日ね!ばいばーい!」
ありがとう遠藤くん。明日からは私、1人で頑張るよ。
「(多分、遠藤くんのこと好きな人たちなんだろうな...)」
まえの白石さんたちは後輩だったからいいけど、次の相手は先輩だ。
先輩となっては遠藤くんにもどうにもならないだろうし。きっと今回こそ、年上らしく引いてくれる。我慢すればいいだけの話だよね。
...でも、ぶつかってくるだけじゃ、あの人たちの気は済まなかったみたい。いつも通り、最近バイトが忙しい未奈乃とばいばいして、昇降口で靴に履き替えようと思ったとき。
「あれー?もしかして松永苺花ちゃんじゃなーい?」
「...はい、松永苺花です」
「あはは、ちょっと話したいことあるんだよね。もちろん来てくれるよね?」
胸が大きくてセクシーな先輩は、胸ポケットから私に向けてカッターをチラつかせた。
怖すぎでしょ。銃刀法違反じゃん。
腕を掴まれて連れてこられた、1階の3年生がよく使う女子トイレ。
目の前にはたくさんの3年生。迫力ありすぎ。怖すぎ。
「あ、あの...なんですか?」
「なんですか、じゃないよね?」
「あんた、遠藤智樹にどれほどの数のファンがいるのか知ってんでしょ?」
「し、知ってます...」
「でもあんたは智樹に対してそういう気持ちないんでしょ?」
「はい、ないです」
「じゃあなんであたし達に当てつけるように、教室でいつも寝てる智樹とイチャイチャしてんのよ!!」
どんっ、と肩を押され、壁に打ち付けられる。突然だったから、思わず声が出てしまった。
「っう...」
「ねぇ、あんた分かってないだろうから教えてあげる。智樹はあたしのモノなの!まだあの子はあたしの魅力に気付いてないだけ。卒業までにあの子はあたし無しじゃ生きられなくなるの!」
「だからあんたみたいな地味っ子が遠藤に近づくと、真琴(まこと)のモノが汚れるんだよ!」
「そうよ!いい加減にしなさいよ!」
「っ...遠藤くんは、モノじゃありません」
「口答えするな!!」
さっきから遠藤くんはあたしのもの、と言い張っている真琴先輩は、胸ポケットからカッターを取り出すとおもむろに刃を出し、私の首に当てた。
「余計なこと言ったらどうなるのか分かってるの?先生たちはとっくにあたしの虜だから、カッターについて何か言ってもムダよ」
「...私、先輩に当てつけるために遠藤くんと仲良くしてる訳じゃありません」
頑張れ私、まだ言える!
「口答えするなって言われたの、分かんねぇの?」
ドスッ
「いっ...!」
いきなり横から足を蹴られてバランスを崩し、その場にしりもちをついてしまった。
「とにかくあんたは、明日から智樹に対して冷たく接すること。あんたさえいなくなれば、智樹は確実にあたしのとこに来るの。出来なかったら...その綺麗な首、このカッターで傷モノにしてやるから」
「真琴、こっわ〜」
「こんくらいしないとやらないでしょ?」
3年生は笑いながらトイレを出ていった。
さっきの衝撃で足をくじいた私は、うまく立てずにしばらくその場に座り込んだ。
「(...遠藤くんのために、耐えなきゃダメだ...)」
運悪く、明日は日直。少しでも彼と接する機会を減らさないと...。きっといつも、どこかで私と遠藤くんのことを見てる。
きっと、私みたいなのと話すより、あんなに綺麗な先輩に好かれる方が遠藤くんはずっとずっと幸せなはずだから。私が、我慢すればそれでいい。
「...少し、落ち着いたら帰ろう」
時間なんて気にしないで、ただひたすら座り込んでぼーっとした。あまり使われないトイレのため、床が綺麗で本当に良かった。
どれくらい時間が経ったかな。スマホを開くともう7時を過ぎていた。
「(あー、今日、自転車できちゃった...)」
おそらく右足はくじいてしまっているし、自転車をこぐには少し条件が悪い。まあ、乗ってきちゃったからには、乗って帰らないといけないんだけど。
昇降口を出て自転車置き場に行くと、遠藤くんが自転車を取り出していた。
「あっ、遠藤くん!」
「...松永」
自転車置き場はぐちゃぐちゃで、遠藤くんはそれを直していたようだった。
他愛のない会話をして、そろそ帰らないとやばいと思ったとき。
「送っていくか?」
ドキッとした。すごく嬉しかった。でも、もう私にはそんなことは許されない。
「えっ、大丈夫だよ!」
遠藤くんと仲良く話せるのはこれが最後だから。なるべく明るく振舞って答えた。でもそんなときに限って思い出してしまう、数週間前の夢。
「(これだけ、話したい!)」
「あ、遠藤くん、待っ...」
右足のことを忘れていて、思いっきりこぎ出して痛みが走り、転んでしまった。
でも、遠藤くんが私に微笑んでくれた。もう、それだけで満足だった。
「(あーあ。数週間前の自分に言いたい。私...遠藤くんのこと、好きになっちゃってるよ、って)」
気付かないようにしてた、自分の気持ち。もう遅いときに溢れてしまった、自分の気持ち。
ねぇ、遠藤くん。最後に笑顔が見られて私は本当に幸せなんだよ。
せめて、これからは名前で呼ばれたい。...なんて、名前呼ばれることも、もうないだろうけど。
「じゃあ、また明日ね!ばいばーい!」
ありがとう遠藤くん。明日からは私、1人で頑張るよ。
