「遠藤先輩、私、ずっと好きだったんです!!この気持ちは誰にも負けません。私と付き合ってくれませんか?」

もういい加減告白されるのは飽きたし、告白してくる女達は揃いに揃って同じことばかり言う。

「そういうの興味ないから、ほんとに」

大体、話したこともない奴に告白されて承諾するような尻軽がどこにいる?話したことも顔を見たこともないやつらに。向こうは俺のことを調べまくっているようだから、公開している範囲は分かるだろうが、俺はあいつらのことなんか一切知らないし、興味もない。

「(本当に勘弁して欲しい...)」

その女たちのせいで、関係ない隣の席のやつまで巻き込んじまった。本当にむかつく。

「あいつは関係ねぇのに...」

「なにが?」

「...なんでもね」

「えっ!なんの話!?マジで気になるんだけど」

こいつは欅 廉(けやき れん)。バレー部で、クラスでは1番話すやつ。部活を7時過ぎまでやってから9時45分までバイトをやる生活を週5でこなす、超ストイックな野郎だ。

「また女の子フッちゃって。かわいそうに」

「じゃあお前が付き合ってやればいいじゃねーか」

「もちろんオレは彼女様一筋ですから♡」

「そんな忙しくてよく続くな」

「真実の愛で結ばれてるからな!」

「くっさ」

「えっうそ。臭う?」

「...うん、臭うわ」

「やっば。冬なのにそれはやべぇわ」

廉はカバンからシーブリーズを取り出すと、ものすごい量をぴちゃぴちゃやり出した。

「うわっ...スースーして寒い...!!」

「そりゃそうだろ、冬なんだから」

「だって臭うって言うから!」

「ウソだよ」

「おまっ...」

「お前バイトの時間いいのかよ。もう7時半過ぎるぞ」

「えっ!?まじかよ、早く行かなきゃ、じゃあまた明日な!!」

欅はあたりの荷物をまとめてカバンに雑にしまうと、そそくさとチャリに乗って校門を出ていった。まだ7時過ぎなのに。

「(俺もさっさと帰るか...)」

自転車置き場までのろのろと歩き、自転車を出す。サッカーとバレー以外の部はまだ終わってないようで、自転車は山ほどあった。

「チッ...なんで俺のチャリにこいつのチャリが絡まってんだよ...!」

俺は無造作に邪魔なチャリをどかした。なんだか今日はイライラしている。けど、それはこいつが来るまでの話。

「あっ、遠藤くん!」

「...松永」

「部活終わったの?」

「おう」

「こんな遅くまで大変だね。お疲れさま!」

「...さんきゅ」

こいつは隣の席の松永。いつも話しかけてくるが、他の女とは違ってうるささが無くて楽だ。

「...お前は、何してたんだよ」

「私?私はなんでもないよ。気付いたらこんな時間だっただけ!」

「...いつも一緒にいるやつは?」

「未奈乃のこと?未奈乃は今日は彼氏と遊びに行ったよ!」

「...」

松永は喋りながらも淡々と倒れたチャリ達をひとつずつ立てている。ほとんどは俺がさっき倒したなんて言えねぇけど。

「...俺がやるから、お前は自分のチャリ取れよ」

「え、ほんと?ありがと!」

「おう」

こいつは部活なんてやってないはずだし、生徒会とかでもないはずだ。なのにこんな時間まで学校で1人で何してたんだ?テストもまだ先だし、勉強する必要もない。

...まさか、彼氏とでもそういうこと、してたってことなのか。要するに、まぁその...そういう、こと。

「(って、俺なに考えてんだよ。こいつが彼氏と何してようが俺には関係ないことだろ...)」

「はぁ...」

「遠藤くん?」

「ん?」

「もうその自転車元の場所にあるよ?」

「っ!」

ぼーっとしていたからか、何度もタイヤをはめ込む場所に自転車を打ち付けていた。やばい、壊れてたらどうしよ。

「大丈夫?体調でも悪いの?」

チャリにまたがりながら、首を傾げる松永。相変わらずあほ面してやがる。

「...なんでもね。お前、どこまでチャリ?」

「私は家までだよ。近いから!」

「送っていくか?」

「えっ、大丈夫だよ!すぐ近くだし、家の方下り坂で雪滑って危ないから。ありがとね!」

こいつはいつも、綺麗に言葉をまとめて返してくる。こっちの返す言葉の見つからないくらい。

「...そうか、じゃあまた明日な」

「あ、遠藤くん、待っ...」

ガシャガシャガシャン!

「ったぁ〜...」

なんだこいつ。なんで何も無いところで、数メートルしかチャリこいでないのに転ぶんだ。

「えへ、なんか変なふうになっちゃった」

「...ほんと、ドジっていうんだな、こういうの」

こいつの馬鹿さに思わず、無意識に笑みがこぼれてしまった。

「あっ!遠藤くん笑った!」

「っ...なんだよ、俺が笑っちゃ悪いかよ」

「ううん、あのね!この間、私の夢に遠藤くんが出てきたの。その夢の中で、遠藤くん...私に向かって微笑んだの」

「なっ...」

「今初めて現実で遠藤くんに笑顔向けてもらった!もしかして、正夢になったってことなのかな??」

「...くだらね。俺、基本テンション高いときしか笑わないから」

「顔の筋肉、死んでんじゃない?」

俺は明らかに不機嫌な顔を松永に向けた。むかつく。こいつを少しでも心配した俺が馬鹿だった。

「あ、それとね?」

「まだなんかあんのかよ」

「私のヒミツ」

「...」

あのとき、お前のも教えろよって調子に乗って言った俺。あのあと結構後悔した。

自分から言っといて相手にも教えろとかクソ野郎過ぎんだろ...。

「私ね、苗字で呼ばれるより、名前で呼ばれる方が好きなんだ!」

「...は?」

「じゃあ、また明日ね!ばいばーい!」

「ちょ、待っ...」

それってどういうことだ?つまりあいつは俺に、松永、ではなく...苺花と呼べ、と言っているのか?

「...あいつ、まじでだりぃ...」

仕方ないから、明日から呼んでやる、か...。