席替えしてから1週間ほど経って、今の席にもクラスはだいぶ慣れてきたようだった。

そんないつもの朝、下駄箱をあけようとしたら、南京錠がかかっていた。

「(えっ、なにこれ...私南京錠なんてつけた覚えないんだけど...)」

自分の下駄箱に南京錠をかけている人はクラスにも何人かいるけど、もしかして他の人が私のところに間違って掛けちゃったのかなぁ...でも違うところ開けたんだからそんなことないと思うんだけどなぁ...。

とにかく鍵がなければ、南京錠は開かないから私は職員室に行って来客用のスリッパを借りた。

「おはよー苺花!あれ、なんでスリッパなの?」

「わかんない、誰かに下駄箱に南京錠つけられちゃったの」

「えぇっ!?誰の仕業よそれ、もしかしていじめ?」

「私なんかしたかなぁ...」

席に座ると、いつもは寝ているはずの遠藤くんが、今日は携帯をいじっていた。

「おはよう、遠藤くん」

「ん、はよ。...お前、なんで来客用のスリッパ履いてんの?」

「誰かに下駄箱に南京錠かけられちゃってさー開かないんだよね、鍵ないから」

「まじかよ、ドンマイじゃん」

「まったく、他人事なんだから」

「それより数学の課題写させてくんね?」

「はぁー!?私より頭いいくせに、私の答えを写すとかなんなの!?」

「頼りにしてるってことで」

「全然嬉しくないそれ」

渋々と数学のノートを渡すと、私は未奈乃のところへ行った。

「苺花、こっち、早く来て」

「え?なんで?」

「...今、後輩の中で噂されてるらしいよ」

「苺花ちゃんのこと」

私と未奈乃の間にいるのは、情報通な長谷部由依(はせべゆい)ちゃん。彼女も結構仲が良くて、話す機会があるときには楽に話せる相手のひとり。

「どういうこと?由依ちゃん」

「ほら、今苺花ちゃん遠藤くんの隣に座ってるでしょ。それが何かわかんないけど、後輩の中じゃよく思われてないみたいで」

「それで、噂はどんななの?」

「...苺花ちゃんが、白石さんが遠藤くんにフラれたのを喜んでるって。それで当てつけるためにわざと席を隣にしたんだってすごい後輩の中で噂になってるし、部活の後輩に聞いたの。先輩同じクラスなんですよねーって言われてさ」

「そ、そんな...ただのくじなのに」

そんなの不公平すぎる。私はただくじで遠藤くんの隣になっただけだし、私は本当に白石さんのことを応援してたし、そんな遠藤くんのファンがいっぱいいる後輩達の中で噂されちゃったら...私、どうしたらいいの?

もしかして、朝、下駄箱についてた南京錠も...。

「多分、南京錠もその子達のせいだと思う。私聞いちゃったの。後輩達が、どうやって嫌がらせしようかって話し合ってたの...」

「そっか...まあでもほら、あたし来客用のスリッパ嫌いじゃないし。別にまあ、仕方ないし。誰も悪くないから大丈夫だよ。きっとそのうち冷めるでしょ」

「だといいんだけどね...」

こればっかりは誰のせいにもできない...。まあ遠藤くんがモテることが発端だけど、それは遠藤くんは悪くないし。まぁ私の運が悪かったって言うしかないよね、誰も責めるべきじゃない。

「席つけー、ホームルーム始めるぞー」

「きりーつ」

このまま私が特に何も動かなければ、きっと後輩達はすぐ引いてくれると思う。そしたら、遠藤くんにもバレずに事が済むと思うし。それが良いよね。

でも、私はこれから何をされるのか、不安を隠すので精一杯だった。授業は全然聞けなかったし、なんだか未奈乃と話してた内容とか遠藤くんと話したこともほとんど覚えてない。

「はぁ...」

「松永、松永ってば」

「えっあっ、ごめん!なに!?」

「...お前、授業全然聞いてなかったろ。数学の答え外れてたぞ、2問くらい」

「あ、ごめん...」

「ま、別にお前が授業聞いてようが聞いてなかろうが、俺には関係ないけど」

「はいはい」

「遠藤ー、早く部活行こうぜー」

「おう」

まあ遠藤くんってそんなに人のこと気にするタイプとは思えないし。気づかないよねあたしのことにも。

「苺花、ごめん!今日急にバイト入ってくれって言われちゃってさ。一緒に帰れなくなっちゃった」

「大丈夫だよ、バイト頑張ってね」

「ほんとごめんね!じゃあね!」

未奈乃はパタパタと走って教室を出ていった。特にやることもないし、私も早く帰ろう。南京錠壊すペンチとか家にあったっけかなぁ、買ったら高そうだし、お父さんかお兄ちゃん持ってたかなぁ。

昇降口について下駄箱を見て、また思い出す。そっか南京錠ついてたんだった。職員室にスリッパ返しに行かないと。

スリッパを返して外に出ると、雪が積もっているというのに、サッカー部と陸上部は元気に走り回っていた。

あんまり雪の積もっていない体育館の側を通って私は帰った。お気に入りの洋楽を聴きながら、歩いていたら、突然の衝撃と共に、私の視界は真っ暗になった。

「っ!?」

ドサドサッ、と音を立てて落ちてきたのは、大量の雪だった。

あれ、体育館の屋根の雪って昨日先生達が除雪してたはずなんだけどなぁ...?まだちょっと残ってたのかなと思い、上を見上げると、体育館のギャラリーから、見覚えのある女の子達がこっちを見ていた。

「(あぁ...)」

そう、白石さんたちだ。私を見てニヤニヤと何かを言っている。

私は雪の中から出て雪を振り払うと、上に目もくれず、スタスタと歩いて帰った。

本当に災難だ、本当に。何でこんなことに巻き込まれなくちゃいけないんだろう?

本当に本当に遠藤くんに当たってやりたい、でも彼は悪くないからこのまま我慢し続けるしかない...大丈夫。