毎日のLINEが日課となってきた頃、私とたくはそれぞれの学校でテスト休みに突入した。お互いに勉強を頑張ったあと、深夜にLINEするというのが自然と決まったようなものになった。

たく:お疲れ!

勉強が終わり、携帯を開くとたくからメッセージが届いていた。可愛い絵文字までついていた。たったそれだけ、30秒も打つのにかからなかったであろうこの文を見て、私は疲れが吹っ飛んだ気がした。

小金井あすか:お疲れ様〜

既読はすぐについた。

中谷拓士:うん!

ここからはLINEのオンパレードだ。
彼の今日の話、私の話。過去の話だったり、色んなことを話した。たまに、彼の既読が遅い時があった。そこで私はこんな疑問をぶつけてみた。

小金井あすか:彼女とかいるの?

ここには即既読がついた。

中谷拓士:いないよ!なんで?笑

小金井あすか:いやー笑笑ちょっとだけ、即既読で、お互いに話してる時に遅いなーって時があったからだよ!そういう時はそっちを優先してね!!

「そっちを優先」するわけないと思った。彼女がいない中で、彼が優先するのは私だと自信があった。学校での私のキャラでは絶対に言わないようなセリフだった。彼は、私のことを知らない、私の外見しかしらない、ならば…と私の感情の中ではあった。私のことを知らないのならば、私は彼の予想に近づこうと思ったのかもしれない。それは今でもわからない。けど、自信があったのは事実である。

中谷拓士:いや!あすかを優先するよ!笑笑 逆にあすか以外の女子とは今、LINEとかしてないしね!!!

嬉しかった。自分が必要とされている気がした。彼との時間は私の1日に意味をもたらしているような気がしていた。

小金井あすか:あ、そうなん?笑

中谷拓士:うん!あすかは?笑

私がLINEしている中にたしかに異性はいるけど、とてもこれ以上の関係になるか、と聞かれた時になるとは答えられない関係のただの友達であった。けど、いじわるしたくなった私がいた。

小金井あすか:いるよ笑笑

意味が入っているであろう「笑笑」。たくは、既読がついてから返信まで時間がいつもよりもかかった。その分かりやすさに思わず、私は面白おかしくなり、返信を追加した。

小金井あすか:でもそんなんじゃないよ?

少し、手の上で遊ばせてもらったよ、たく、ごめんね。私は心の中でたくに謝った。

中谷拓士:ほんとにー?笑笑

小金井あすか:ほんとだよ!!!

なんですか、このバカップルなような会話。そう非難しながらも、心のどこかでは気持ちが良いような、落ち着くような、やっぱり楽しいようなそんな心情だった。

中谷拓士:身長どれくらいなーん?

小金井あすか:164.2くらいかな…

中谷拓士:え、高いやーーん

小金井あすか:嫌やー

中谷拓士:なんで?俺、身長高い人、好きやよ。

たまに不意打ちでくる彼のアピールには手を出せなかった。そして、私は惹かれいっていることに気づいていた。けれど、たくは私のことを覚えていた。私は、彼のことを覚えていない。だから、私からすれば、ネットで知り合った方と話しているのと代わりはない。ネットで知り合い、恋をする。会ったこともない方に恋をする。そんなの可笑しい、と私の周囲の人間は言った。私も、その意見に同意出来た。それは、社会の中でネットでの殺人事件などが頻繁であるからだろうか、だが、たくが私を殺すことは100%ない事だ。では、何が問題だったのだろう?私は、その答えに辿り着けなかった。

中谷拓士:ねぇねぇ、電話しない?笑

たくがそういってきたのは、話し始めてわずか1週間くらいの時であった。昔、声が枯れて以来、私は普段の自分の声は気にしないけれど、声を頼りにしている電話だったり、そういうのは苦手に値する。例えば、動画で喋ってくれ!と、言われても、私は断るだろう。自分の声がスマホなどで録音されて、それを聞くことが私は嫌いなのだ。さらに、電話は、お互いが恥ずかしくて、照れてしまって、話せなかったら、非常に気まずく、逃げ道がなくないか、と、私は頭の中で考えた。

小金井あすか:親がいるから難しいかな

中谷拓士:いつならできる?

小金井あすか:親が寝てからとか…?

中谷拓士:いつもどれくらいに寝てる?

小金井あすか:バラバラすぎてわかんない汗

中谷拓士:わかったよ!出来る時、いつでも言って!!!

彼の返信の文章には「電話したい!」という意思が入り、文字上でもそれが伝わってきた。

翌日の学校から家への帰り道だった。私は、徒歩でふと、電話してみようか、という気分になった。

小金井あすか:電話、してみてもいい?

返信は、いつもより早かった。

中谷拓士:うん!

でも、私はかけなかった。電話したという報告を友達にする時に、彼からかかってきたというていに、私はしたかった。それと、ただ単純に電話をかけるという仕草に、緊張していた。数分後、たくから電話がかかってきた。

『もしもし?』

初めてのたくの声を電話越しで私は聞いた。優しい口調だった。すぐにこの人が、優しいということが分かった。

「もしもし!初めまして!あすかです!」

私は緊張していた。

『うん』

あっちも、緊張していた。少し無言の時間が続いた。私は自分の家についてしまった。

「あ、たく、ごめん。いえ、着いた〜もう1回かけ直せばいいかな?」

『夜やるのと、かけ直してやるのだったら、どっちの方が長くできる?』

「…夜かな?」

『じゃあ、夜で!!』

また連絡することを約束し、私は電話を切った。その時、鏡を見なくても、私はにやけている事が、自分でもわかった。毎日の癒しがたくになっていた。

私は彼がいなくなることなんて想像出来なかった。