そして冬華は玲子の遺言通り、松岡 優輝を“守る”ことになったのだ―――
「そんな……そんなことって――――……私……全然知らなかった……」
一通りの話を聞き終えて、悦子は呆然と口を開いた。
両腕をだらりと下げ、脱落しきった顏に表情と言う表情はなかった。
「久世 悦子さん。
これはあんたに言おうか言おまいか悩んだが―――
あんたの今日の反応を見て、やっぱり話すことにしたよ」
俺がテーブルの上で手を組み、ゆっくりと切り出すと
「まだ何か……?」と悦子は疑わしい目で俺を見上げてきた。
「あんたの旦那が経営する久世コーポレーションは、経営難だそうだな。それどころか手形の不渡りを出して借金もこさえている、とか。
従業員の給料も払えず、自己破産も考えてるって」
今まで飄々とした態度で俺の話を聞いていた悦子の顔色がサっと変わった。
「そんなことまで調べたの!?冬華の事件とそれは関係ないことじゃない!!警察はそんなことまで調べるの!!プライバシーの侵害よ!!」
顏を真っ赤にさせて怒鳴り散らす悦子に、周りに居た客たちが何事か振り向いた。
「関係あるさ。
冬華は生命保険を掛けていてね。それも結構な金額だ。
だが事件が発覚する数日前に、冬華は生命保険の受取人を父親から
君へ
と、書き替えている」
俺は冬華の生命保険証券をテーブルに置くと、悦子は目を開いた。
「え―――――……でも私……何も連絡貰ってないわ……冬華からも……保険会社からも……」
「当然だ。生命保険の受取は一旦彼女の弁護士に渡った。彼女が死ぬ直前に弁護士宛てに投函したものだ。
保険証券と同封されていたのは、『遺書』とも呼べるものでね。
久世 悦子
君が自分の四十九日に来てくれたら、そのときに証券を渡して欲しい、と―――」
今日がその四十九日の日だ



