包丁の血液から見て松岡 優輝は99%以上の確率で生きてはいないことが容易に想像できた。“殺し”は我が課の専門分野だ。
俺が『張り込み』の為マンションに向かったのはその日の午後。捜査本部が設置されてから、偽の身分と名前を手に入れ、すぐさまマンションに向かった。
が―――本当にタイミングが悪く、捜査対象である城戸 冬華に遭遇してしまった。
顔バレした以上仕方ない。と言うことでその後は堂々と彼女の動向を監視していたわけだが。
だが偽の身分のため用意した職場に会いに来られるとは思っていなかった。予想外なことだったが、タナカ シュウイチは実際に存在する営業マンだったし、あの会社に籍を置いていた。冬華が会いに来たとき本物のタナカが外回り中だったのはラッキー以外何者でもない。
今思えばこの時点で俺に疑いを持っていたに違いないから、俺という人間がその会社に在籍しているのか確認しにきたのだろう。本人は万年筆を返したい、と言っていたがきっとそれも嘘に違いない。
だがコンシェルジュにコンタクトを取っていたことは全くの予想外だった。彼女の口から聞かされたとき「あっぱれ」とさえ思った。そこまで頭の回転が速いにも関わらず何故容易に凶器である包丁を捨てたのか。
―――冬華は、最初から殺人を隠すつもりも、刑事から逃れるつもりも毛頭なかったのだろう。
だから俺の正体を知っても、逃げることはしなかった。
そんな彼女だからこそ自白してほしかった。
だから俺は何度も彼女に刑事が見張っている旨をそれとなく伝えた。俺の意図は彼女に伝わってはいたがそれでも彼女は逃げることもせず、また俺の願いを聞き入れることもなかった。
彼女が最初から望んでいたこと―――それは
松岡 優輝と心中することだったのだ。



