包丁は新聞にくるまれて無造作に捨てられていた。さらに付着した血液を調べると人間のものでB型と判明。
警視総監の三男坊、優輝のものと一致する。更には包丁の柄に指紋がべったりと付着していた。
だがこの指紋は前歴者のデータベースでヒットしなかった。
上に報告が上がってきた時点で、事件は支店(所轄のこと)から本店(警視庁)へと移され、俺が指揮官に命じられたのは血のついた包丁が見つかって二日間。異例の速さだった。
そして血液からDNA鑑定がなされ、それが松岡 優輝のものであることを99%以上の可能性で立証されたと知った警視総監は―――
「何が何でもホシをあげろ。手段は選ばん」との仰せで、彼のその表情には言葉では言い表せない憎しみと苦しみと、悲しみが混在した複雑な表情を作っていた。そしてこうも言った。
「君のやり方で構わん。それがたとえ法を犯そうとも―――な。
厄介なことになったら私がもみ消す。心配するな」
言葉通り、俺と冬華が男女の関係になったことを、当然ながらあの流れで知られることになったが、それでも上からの御咎めは一切ない。
警視総監は自分自身の言葉を守ってくれたようで、俺の身は助かったが―――
法は全ての者に平等だ、と俺は冬華には言ったが、――――嘘だ。
刑法を扱う人間の言葉がすでに平等ではないのだ。この世は―――とても不公平だ。
間違っていることの不条理さを被害者が泣き寝入りするこの世の道理を、変えたかった。だから正義を追い求めて刑事になった。刑事になれば全て正しいことへ導いてくれる気がしたから―――
だが実際は違った。
優輝の父親は刑事としては失格だが、父親としては――――……
勘当した、絶縁した、とは言え―――やはり息子のことは
心のどこかで愛していたに違いない。
そこで俺たちはすぐさま、久世 悦子に接触を図った、と言うわけだ。
悦子はすぐに冬華が使ったであろう手鏡を手渡してくれた。そこから採取した冬華の指紋と―――包丁の柄にべったりと付着していた指紋が
一致した。



