Room sharE




家まで距離があると言ってさらにホールを買えばそれだけ多くドライアイスをもらうことができる。


冬華が何故ケーキ屋のビニール袋を提げていたのか、納得がいった。店はここ数年前にできたパリの老舗菓子店で日本初上陸ということを謳っていた。それが功を奏したのか、或いは本当に旨いスイーツを売っていたかもしれないが……甘いもん好きじゃねぇし、これだけは確かめることができなかったが。店は繁盛していた。


そうゆう店って普通店のロゴが印字された“紙袋”を使うものだろう?けれど冬華のそれは違った。紙袋だとドライアイスが染み出す恐れがあるから、店員に頼んで敢えてビニール袋を使用したのだろう。


冬華とはじめてバーで酒を飲んだとき、妙に寒く感じたのはこのせいだったのだ。


さらにドライアイスは溶けたら気化して跡に残らない。しかもドライアイスは店側が善意に用意したものだから客に販売した痕跡も残らない。
考えたものだ。


その簡単かつ大胆なトリックを悦子に言うと、彼女も目を丸めていた。


「あのケーキにそんな意味が?」


俺は無言で頷いた。


そもそも俺が……いや、俺たちが捜査に当たったのはそれなりのキッカケがある。


松岡 優輝と父親である『我らの』……完全にイヤミだなこれは……とにかく警視総監“様”は絶縁状態だった。二人の兄もできの悪い弟のことは見捨てていたようだ。しかし、母親は違った。


つまりは警視総監殿の奥方だ。彼女とは頻繁に電話やメールでやりとりをしていたらしいが、ある日を境にぷっつりと連絡が途切れた―――


母親と優輝は近々会う予定があり、優輝と音信不通になる、ましてや突然姿を消す……なんてことあり得ない、と夫である警視総監に相談し捜査をするよう説得したのだろう。


優輝が今現在どこに住んでいるのか見つけるのは容易いことだった。






城戸 冬華のマンションだ。






すぐに所轄の刑事が出向いたが、冬華も…もちろん優輝も不在で、代わりといっちゃなんだが彼女の出したゴミを証拠として持ち帰った。その日はちょうど不燃ゴミの回収日だったのが幸か不幸か―――彼らは何か手がかりがあるかと思って持ち帰ったのだろうが、とんでもないものが出てきた。


それは―――






明らかに人間の血液と分かるものが付着した


包丁だった。