Room sharE




「冬華が結婚?知らないわ」


最後の証人は久世(旧姓、間宮)悦子。冬華の友人だ。


昼下がりのひと気のないレトロな喫茶店で、俺たちは会うことになった。


久世 悦子とは、冬華が死ぬ前にも何度も接触している。冬華が大事にしている鍵の存在を教えてくれたのも、久世 悦子だった。


冬華とは親友だ、と言っていたがあっさり口を割った辺り、その言葉が上辺だけのものだとすぐに見抜いた。





そして冬華も――――悦子のことを


心から信頼しているようではなかった。




彼女と……悦子と会うのは、冬華の葬式以来……実に一か月ちょっと経っていた。悦子は黒っぽいワンピースに身を包み、パールのネックレスをしている。化粧も薄めで喪に服している風を装ってはいるが、その表情はどこか胡散臭かった。話す前からハンカチを握っている辺り、泣く気満々だな。大した演技派だ、とちょっと俺は苦笑い。


「今度は何の用ですか?刑事さん。もう事件は終わったんでしょう」


すでに鼻声で開口一番に聞かれ、俺もそれに応えるべく


「冬華と松岡が結婚すると言う話を、あなたは聞いていましたか?」と事務的に彼女に問いかけた。


「冬華とあのヒモ男が?」鼻をすすりながら潤んだ目で悦子が俺を見上げる。


「そう。彼女は周りに……家族にすらそのことを打ち明けていなかったけれど、もしかしたら“親友”は別なのかもしれない、と思いましてね」


俺の問いかけに悦子はゆるゆると首を横に振った。


「知らないわ」そのふしに悦子の目から涙がぽろり、と一粒落ちた。


「私は何度も言ったのよ。あんな男やめておけって。ひどい裏切りをしたのはあっちなのよ。だからあんたもやり返したら、て言ってやったわ。


でも……まさかあんなことになるなんて……!」


悦子はやや大げさに声を震わせて、両手で顏を覆った。


なるほど……


俺は目の前で泣く久世 悦子の顏を冷ややかな目で見下ろした。


とんだ三流女優だな。男を騙すのならもっとうまくやってほしい。因みに刑事を騙すことは考えないで欲しい。


とにかく、腹の中に真っ黒なものを一物も二物も抱えているこの女の涙に、苛立ちすら覚えてきた。


「とんだ女優だな」嫌味の一つも言いたくて、つい口に出た。


悦子は大げさに泣いていたが、俺が慰めることや悔やみの言葉を掛けずに、挙句彼女を蔑む言葉を口にしたのが気に入らなかったのか、やがてのろのろと顔をあげると潤んだ目を俺に向けてきた。


「……何が……言いたいの……?」





「嫌いだったんだろう?冬華のことが。


言いザマだと思ってるんだろ?」