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杉崎 亜里沙と松岡が“付き合って”いたことは、あまり知られていなかったことで……


まぁ松岡にしてみれば杉崎 亜里沙の方が浮気相手だから、公にできるわけもなく。この事実の裏を取るのが、まぁ時間が掛かった。


杉崎のモデル仲間や、家族、友人知人の類に聞きこみしたにも関わらず浮ついた噂話はこれと言って出てこなかった。徹底している。


杉崎のモデル仲間や頻繁に連絡を取る友人たちがちらほら彼女から「好きな人がいる」と聞いた程度で、それが松岡のことだとは誰も結びつけなかった。実家暮らしだった彼女の家、埼玉にある一軒家からもそれらしい証拠は何も出てこなかった。


本当に松岡 優輝と杉崎 亜里沙は交際していたのか、と言う疑問さえ浮かんできたときただった。




―――証言は意外なところから得られた。




音楽プロデューサーと言うS氏の発言だ。彼もまた立場上、名を明かすことはできないが、このプロデューサー、以前冬華と関係があったと言う。


プロデューサーなんて胡散臭い職業正直信用に足るものではなかったが、身元はしっかりしていて、有名音楽家一家の次男坊だった。父親は世界中で活躍するコンダクター。一つ上の兄はこちらも世界中で活躍する天才ヴァイオリニスト。そして妹も同じく世界を羽ばたくヴァイオリニストだ。本人も世界で活躍できる程のチェリストだったらしいのだが、彼はクラシックの道を行くことはなかった。


松岡とどこか境遇が似ている。冬華はこうゆう―――どこかとりとめのない何かを持つ男に惹かれる癖があったのだろうか。


だがS氏の場合は松岡と違ってこちらはJ-POP界ではかなり有名だった。彼の手がけた……いわゆる作詞作曲をした曲をアーティストに提供する、と言う仕事は大盛況だった。曲名を聞いただけで「ああ」とどれもすぐに合点が行くほどだ。ゆえに金には困っていない様子で、そのせいか女関係は随分と派手だった。


容姿もそれを裏切ることなく、松岡とは違ったタイプの華やかな顔立ちをしていた。


「冬華が紹介したいミュージシャンが居るって言うから、まぁ?昔の女のよしみで一曲提供することになったんだ」


と、こちらはU氏とは違って、随分と協力的……と言うかおおっぴろげだ。


「あいつもその男と付き合ってるてこと隠してなかったし、そもそも俺と冬華は互いが遊びだったんだ」


「遊びだった女に、生命線ともなる曲の提供を――――?」とツッコむと


S氏は諦めたように軽く肩を竦めた。


「まぁ?創ってやってもいいけど、その代わりもう一度やり直さないか、一晩だけでも。って条件を出したのは事実」


当然だよな。昔付き合ってたよしみだけで、商売するような心の広そうな男ではない。松岡と同じでずる賢く、人を利用して世間を渡っていくタイプだ。


「ところで城戸 冬華とはどうして別れた」と聞くと


「その情報今必要?」と返された。


「何でも調べるのが刑事の仕事でね」と言うと


「ありがちな別れだ。性格の不一致ってヤツ?そこまで言ったらわかるっしょ。体の相性が悪かったわけだよ、俺ら。


だからか、そうじゃないのか。条件を出したとき冬華は断った。そんなことなら曲は要らないってサ」


「それでもあんたは曲を提供した。松岡が一枚だけ作ったと言うCDが世に出回っていたよ。今は話題の遺作だとか騒がれてて、どこも売り切れ。探すのに苦労した」


俺は一枚のCDをテーブルに滑らせた。それを指で止めながらS氏は目を細めた。


「だからだよ。冬華が俺のこと拒むぐらい、そいつには本気なんだって―――ちょっと悔しかったけど、でも


だからかな……いい曲が書けそうだった」


確かに―――松岡の歌唱力はともかくとして、曲自体は切なくも甘い優しいバラード、それは良いものだった。


「レコーディングにも付き合ってサ、こうじゃないああじゃないって指示したからあのときのこと覚えてるよ。


曲は片思いと別れをイメージして書いた。好きな女のことでも想って歌えって指示したら、休憩時間にモデルのアリスだっけ、アリアだっけ……」


「亜里沙だ、杉崎 亜里沙」俺が訂正すると


「そうそれ。その女の話を出してきてサ」


「間違いないか?付き合ってると?」







「いや?でも



ヤバい女に付きまとわられてる―――って言ってた」