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パトカーのサイレンを遠くで聞いた。いや実際近かったけれど、まるで幻聴のように近づいたり遠のいたりそれは酷く不快な音だった。


後は人の波から聞こえる囁き声。噂話。写真や動画を撮る人もいたけれど、警察官の人たちが注意をしていた。


私はお巡りさんに促され、パトカーの後部座席へと座り込んだ。


「大丈夫ですか?」と紺色の制服を着たお巡りさんに心配そうに聞かれ、同じく隣に座った……私服警官だろうか、刑事さんと思われるスーツを着た女性の警察官も私の両肩を抱き、肩を撫でさすっている。年齢は私と同じぐらいだろうか、優しそうな女性警官だった。


私は震える手を合わせながら、きょろきょろと振り返り


「……あの……タナカさんは……彼は……大丈夫ですか…」と聞くと


「タナカ?」と女性警官が首を捻り


「一緒に居た……男性です……背の高い……」と付け加えると


「ああ、彼は大丈夫。傷一つ負っていないわ。だから安心してください」とそのふわりとした容貌からかけ離れたキビキビとした受け答えに、私は深い深いため息を吐いた。


あの時のことは―――良く覚えていない。


私が夢中で彼を押し退けようとしたけれど、タナカさんはびくともしなくて、向かってくるあの女のナイフが握られた手を―――真正面から受け止めた―――ように思えた。


けれどタナカさんは手や腕に怪我を負うことなく、彼は女の手首を掴んで捻りあげたのだ。ナイフが地面に落ちる渇いた音と、私がその場でへたり込んだのがほぼ同時だった。


ストッキングの上から出も分かった。あのときアスファルトはまるで雪のように冷たかったのに、でも私の体はまるで熱を持ったように熱かった。