この日も私はタナカさんの職場の近くまで来ていた。今朝、タナカさんに連絡したところ、『うまいランチがあるんだ』と言われたのだ。


指定された場所はタナカさんの職場近くの少し大きめの公園だった。敷地面積は意外に広そうだ。全長5㎞の遊歩道にそれと並行してサイクリングロードも作ってある。中央と西側に大小の池もあり、所々植えられた花々は四季折々のものを咲かせるに違いない。


だが生憎だが、季節は真冬。当然花など咲いてなくて。南側の出入り口付近にある大好きな薔薇園を見て見たかったけれど、残念……この時季は枝ばかりで殺風景だろう。


公園のぐるりを囲む木々も細まった枝だけを天に伸ばしていて、木枯らしがびゅうびゅうと頼りなげな枝を揺らしている。随分寂しい光景だった。


約束の時間まであと五分。


厚手のコートの前をぎゅっと合わせて、かじかんだ指に息を吹きかけているときだった。


「いらっしゃいませ~」と冬の空気をものともしない明るい声が聞こえてきて、声のした方を振り返ると、そこは『bakery』と書かれた看板を掲げたカラフルなワゴン車が停まっていた。


近隣のOLだろうか、制服の上にコートを羽織りお財布だけ持った女の子たちの群れができていて


「アンパン一つとクロワッサン」だとか「塩フランスと、マルゲリータピザパン」と言う慣れた注文の声が聞こえてきた。


おいしいのかしら、と言う意味で目を細めていると


「お待たせ」と背後からぽんと肩を叩かれ、私はゆっくりと振り返った。