『嬉しいな。電話番号教えたのは俺なのに、まさか本当に掛けてくれるとは思ってなくて』とタナカさんは声を弾ませて言った。
「あら、掛けてもらうために渡したんでしょ」
『正直、教えたのかどうかも曖昧で……夢か現実かどっちか分からなかった』タナカさんはあっさり言ってまた軽い調子で笑う。ちっとも悪びれてないその物言いに呆れる、と言うよりもいっそ清々しいものがあった。
「まぁ酷い」
拗ねたフリをしたけれど、実際のところは違う。曖昧な感じなのっていいわ。女はあんまりガツガツ来られると逆に引くものよ。酔った勢いでもいいじゃない。
『今日俺を訪ねてくれたんだって?』
タナカさんがさらりと話題を変えて聞いてきた。
「ええ。でも私……受付嬢に名乗ってなかったのに」
『特徴を聞いてすぐに分かった。長いブルネットの美女だって。背が高くてスタイルが良くて』
「分かったわよ。それ以上は言わないで」
ほんの少しだけ頬が熱くなる。他の男から言われてもたぶん何とも思わないのに、タナカさんに言われると体の芯から熱を持ったようにじわりじわりと熱い何かが身体中に巡る。
『何、照れてんの?』タナカさんがからかうように笑う。
「違うわよ」今度はフリではなく本当に拗ねて口を尖らせていると
『うっそ。照れてる城戸さん、すっげぇ可愛いじゃん。
それにどんな理由であれ、訪ねてきてくれて嬉しかった』



