そうこうしているうちにエレベーターは目的の40階に到達した。


エレベーターを降り、何となく……と言うかお隣さん同士だし共有スペースであるマンションの廊下を並んで歩く。


「また、会えるかな」


彼が唐突に言った。


今度は私が小さくウィンクをする番だった。







「会えるわ。近いうち、必ず――――ね」








私の意味深な発言に、タナカさんは不思議そうに目を開いて口元を引き締める。けれどすぐに表情をゆるりと緩めて人懐っこい笑みを浮かべ


「ご挨拶の品物がなくて申し訳ない。今手持ちで差し上げられるものとしたら……」と言って鞄をごそごそ言わせ出てきたのは




まるで熟れたイチゴを思わせるような濃密なストロベリーレッドの表紙が特徴的な





「Bible -聖書?」


私は苦笑いを浮かべながらもそれを受け取った。何せご挨拶で聖書を出されたのも、男からのプレゼントでもはじめてのものだったから。


「あなたは布教者なのかしら?」


「違いますよ。その赤色が気に入って、部屋のインテリアにしようかと思ったんですがね。ほら、外国の映画に出てくるようなかっこいい部屋に。でもそれ一冊じゃ様になりませんから」


タナカさんは渇いた笑い声をあげる。


「そうゆうことだったら、ありがたく」目を伏せてちょっと笑うと、私はその聖書をバッグに仕舞い入れた。


その動作を見てタナカさんはほっとしたようにまたも瞳を揺らがせて、


「これから宜しく、お隣さん」うっすらと笑った。


「こちらこそ。


それと、何であなたが“住んでる”物件に人が寄りつかないのか、教えてあげましょうか」


私の再びの発言にタナカさんは再び顎を引いて黙って耳を傾けた。






「そこ、事故物件なんですよ。



もちろん、ご存じですよね?





一年前に、女の人がそこから飛び降りて亡くなってるの」







私は低く笑いながら、自分の部屋の鍵穴に


鍵を差し込んだ。


扉を閉める際、タナカさんの影が私の足元まで伸びていたけれど、その黒い影に小さく微笑みを投げかけ


私は扉を閉めた。