「先生、さようなら」

「さようなら」

もう時間も遅くなり、子どもたちは次々と家に帰っていく。

そんな中、まだ残っている子どもたちと遊んでいると、1人の女の子が

「先生この絵本読んで」

と一冊の絵本を持ってきた。

「いいよ ~」

そう言って本を受け取ると

「みんなおいで」

とまだ残っている子どもだちを呼んだ。

「じゃあ、読むね」

と、私が本を開こうとした時だった。

私はその絵本を見てハッとした。

それは結姫が昔読んでいたのと同じ白雪姫の絵本だった。

急に懐かしくなる。

それにこの絵本って保育園に置いてなかったはず...

すると

「先生まだ ~?」

と子どもたちの急かす声が聞こえた。

「ごめんごめん」

そう言うと私は絵本を開いた。

読んでいるとみんなと過ごした日々を思い出してしまった。

嬉しくなってしまい、とても感情移入してしまった。

「おしまい」

と本を閉じると子どもたちは不思議そうに私を見ていた。

「どうしたの?」

と私が聞くと

「先生、白雪姫みたいだったよ」

と1人の女の子が楽しそうに言った。

「ほんとに?」

すごく嬉しい

すると

「ゆき」

とその女の子を呼ぶ声がした。

「ママ!」

と絵本を持って嬉しそうにその子はお母さんのところまで走って行った。

「読んでもらったの?白雪姫」

「うん!」

この子の本だったのか

どうりで見たことないはずだ

と私が思っていると

「先生って白雪姫ってわかりますか?昔、病院にいた」

とその子のお母さんは突然たずねた。

「は、はい」

なぜ結姫のことを...

「実は私が病気をして少し入院していたときに彼女が読み聞かせをしていて」

「えっ?」

「その時、私も同じくらいの年齢で病気と闘いながらもあんなに明るく優しい白雪姫に憧れていたんです」

「そうだったんですか...」

「その時に先生も見かけたような気がして」

「あ、そうだったんですか」

「私は無事に退院することができてそのあと何回か病院に行く機会があったんですけど彼女を見かけなくて」

とお母さんは心配そうに言った。

私は最初何とこたえればいいかわからなかった。

けれど正直に

「亡くなったんです、10年前に...」

とこたえた。

お母さんは

「ごめんなさい、嫌なことを思い出させてしまった」

と言った。

確かに思い出すのは辛い。

だけど嬉しい気持ちもあった。

「結姫のことを覚えてくれている人がいて嬉しいです」

だって結姫は私たちの中だけじゃなくて他の人たちの心の中にもいるのだとわかったから。