……今、クローバーの話を持ち出せば──明希ちゃんの本心を尋ねれば、この穏やかな時間は一瞬にして壊れてしまうのだろうか。


日が翳り、吹きつけてくる10月の風が冷たい。

天気予報では一日晴れだったのに。


ブラウス一枚しか纏っていない右腕をさすっていると。


「ヒロ、寒い?」


「え?」


不意に明希ちゃんが自分が着ていたブレザーを脱いだかと思うと、私の肩にかけた。


甘い香りと温もりが、ふわりと落ちてくる。


「これ使って」


「でも」


「俺は十分あったまってるから。
明日、学校で返してくれればいーし」


さっきまで容赦なく風に突き刺さされていた腕が、温もりに包まれ守られる。


思わず隣に視線を向ければ、明希ちゃんがふっと綺麗な笑みを唇に乗せた。


「それに、偽とはいえ、彼女をあっためるのは彼氏の役目ですから」


わからなくなる。明希ちゃんの気持ちが。


信用しちゃだめだと、心の中でもうひとりの自分が叫んでる。