できるだけ気を遣わせないようにと平坦なトーンで断ったその時、不意になにか影が落ちてきた。


パサリと音を立てて私の頭に落ちてきたのは、明希ちゃんのキャップで。


「じゃあ、これ被って帰ること」


「え?」


「ナンパ防止」


少し大きくて瞼にまでかかるキャップの影から、明希ちゃんの笑顔が覗いた。


「今日はありがとう。君のおかげで楽しかった。
また明日、あそこで待ってるから」


ぽんぽんと私の頭を優しくたたいて、明希ちゃんが歩いていく。


……明希ちゃんは、まるで台風の目だ。

まわりの人の心を、すごい勢いで巻き込んで、自分の渦の中に引き込んでしまう。


嵐が過ぎ去ったみたいな、そんな騒がしさが心の中に残って、私は明希ちゃんの小さくなっていく後ろ姿を見つめていた。