小林先輩がいない時に改めて出直そうと、一緒に食べるために持ってきた重箱を抱えて、来た道を戻る。


思いとは裏腹にすっかり腹ぺこになってしまった私は、教室に戻る時間も惜しくて、校庭に唯一置かれているベンチに腰掛けた。

今にも雪が降りそうな灰色の曇天の空の下、寒いからか、校庭に生徒の姿はない。


「いただきます」


ひとりでそう口にし、私は重箱を開けた。

吐き出された白い息が、冷たい空気に飲まれていく。


気づけばそろそろ冬休み。

長期休暇に入ってしまったら、さらに明希ちゃんに会えなくなってしまうな……。


心にぽっかりと穴が開くような寂寥感を覚えながら、重箱に詰め込んだお弁当をパクパクと口に運んでいた、その時。


「こんなところにいた」


背後から聞こえてきた思いがけない声に、きゅっと胸の奥が締めつけられた気がした。


「あ──弘中さん」


振り返れば、ポケットに手を入れ、涼やかな笑みを唇に乗せた明希ちゃんがそこに立っていた。