「ふふ、明希ちゃんったら」


──翌日。

美術準備室の前、弁当箱を抱きしめた私は、思わずその場に立ち尽くした。


中から聞こえてくる、〝明希ちゃん〟という呼び名。


そう呼ぶのは私だけだったのに、お互いを見つける合言葉だったのに、今その呼び名は小林先輩の声で奏でられている。


なにかが壊されてしまったような気がして呆然としていると、ドアの向こうから明希ちゃんの声が聞こえてきた。


「なに、その〝明希ちゃん〟って」


「可愛くない?
これからそう呼ぶね」


「呼ばれたことないから、なんか照れる」


ドア1枚を隔てて楽しそうに繰り広げられる会話を聞きながらも、私にはどうすることもできない。


初対面状態になっている彼に、私は〝明希ちゃん〟なんて呼べなかった。


なんだかとてつもなく遠くなってしまったようで。

……ああ、すごくモヤモヤする。