「ああ。この話を聞いて高垣がどう思おうが構わないが、……どうか明希のことは責めないでやってほしい」


「え?」


虎太郎さんは数秒唇を結び、そしてまた低い声を紡いだ。


「──明希は、2年前にバス事故に遭った」


「2年前……バス事故……?」


思わず目を見張る。

だって、そのワードには心当たりがあった。


その様子を察知したのだろう。

虎太郎さんは肯定するように私を見た。


「ああ、そうだ。
高垣の幼なじみが乗っていた、あのバス。
あそこに明希も乗っていた」


「うそ……」


そんな……。

あのバスに明希ちゃんが乗っていた……?


「その時明希は頭を強く打って、複雑な記憶障害を患った。
あの事故以来、明希の記憶は1日分しか持てなくなってしまった」


「……っ……」


言葉が、出なかった。


まるで頭を殴られたような衝撃だった。


限界まで目が見開かれる。

頭の中でドクドクと脈打つような感覚。


虎太郎さんから告げられた言葉を、受け止めるのに必死で、でも受け止めきれなくて。


「眠って目が覚めると、記憶がリセットされる。
明希は、昨日までの記憶を持っていないんだ」


駄目押しのように、虎太郎さんが悲しみに染まった声でつぶやく。