「──ヒロ、ナツに会いたいってたまに言うんだよね」


「……そうか。でもそれは」


「うん、できない」


ふと、意識の奥深くで、そんな明希ちゃんと虎太郎さんの声が聞こえてきた。


だけど目を開けるまでは至らなかった。


夢、なのだろうか。現実なのだろうか。

混沌とした意識では、その判断はままならなくて。


「ナツも、踏ん張ってる。帰ってこないように。
ヒロと会ったら、多分いろいろなことが崩れるから」


朦朧とした意識の中、ぎゅっと肩に回す手に力を込めれば。


「俺は君にいくつ嘘をつけばいいんだろうな。
ごめん、ヒロ」


明希ちゃんの弱々しい声が聞こえてきた。


明希ちゃんはなにを謝っているのだろう。

わからないけど、明希ちゃんが謝るようなことなんて、ひとつもない。


「ううん」そう答えようとして、だけど大波のように襲ってくる睡魔に抗うことはできなかった。