もうこれ以上迷惑はかけられない。そう思っていたのに。
私の心は多分、出会ったあの時から徐々にほだされてしまっていた。
気づいた頃には手遅れだった。
私は明希ちゃんの肩に顔を埋め、ぎゅっと目をつむった。
そしてやり方は分からないけれど、胸の奥に溜まった本音を、少しの勇気を持って、息をもらすように吐き出す。
「……大のことを忘れるのが怖い」
「うん」
ひとつ紡ぎだしてしまえば、心の中のダムが決壊したかのように、固く閉じ込めていた本音がぽろぽろとこぼれ出ていく。
記憶の断片となった大の笑顔が、頭の中をいっぱいにする。
「会いたい」
「うん」
「置いていかれるのは嫌だ」
「うん」
「独りにしないで」
「うん」
「寂しい……っ」
「うん」
ちゃんと聞いてるよ――そう言うように相槌を打ちながら、明希ちゃんの大きな手が私の頭をそっと撫でる。
「ずっと、苦しかったよな。よく話してくれたね、ヒロ」
明希ちゃんの声が心になじんで、じんわり溶けていく。
なんて優しい声だろう。


