鼻を突く独特な線香の香り、お坊さんの剣呑に伸びる声と木魚の音、ところどころから聞こえてくるすすり泣く声。


――そして、一番奥でたくさんの花に囲まれ飾られている大の写真。

はにかんでいる大は、なぜか私の知っている大とは別人に思えた。


大が亡くなったと知らされてから通夜を迎えるまで、私は泣くことを忘れて放心状態でいた。

心が緩やかに死んで、感情の機能が壊れてしまったようだった。


『ほら、未紘。大くんに最後の挨拶、してこよう』


会場の通路で立ち尽くしてしまった私の手を引っ張るお母さんの声が、ぼわんぼわんとこもって遠くから聞こえてくる。


多分これは現実なんかじゃない。ずっと悪い夢を見ているのだ。

なんて冗談だろう。こんな趣味の悪い夢、さっさと覚めたい。


『……いや。最後ってなに……?』


数日間喉を閉じてようやく発した声は、自分のものとは思えないほど掠れていた。