──それは、小学6年生の時、父のお下がりのギターを持って、河原に初めて歌いに行ったあの日。
ひとりで歌っていた私の元に、年上に見える男の子がどこからか寄って来た。
そして、すごく柔らかい笑顔で言ってくれたんだ。
『すごく素敵な歌声だね』って。
聴かれていたとは思わなかった私は、思わずギターを持ったまま目を瞬かせる。
『素敵……?』
『素敵だったよ、すごく。
ってあれ、どうしてそんなに驚いてるの?』
『そんなこと、初めて言われたから』
だれかに自分の歌声を聞かれること自体初めてだ。
その上、素敵、だなんて。
すると、彼は端正な顔を優しく綻ばせ、涼やかな声色で言った。
『じゃあ、俺が〝ファン一号〟ってことだ』
それから私がひとりで歌っていると、〝ファン一号くん〟は毎日来てくれた。
特等席だって言って、歌う私の前に座って。
そして、すごく心地よさそうに聴いてくれて。
あの時の笑顔が、ふと、彼の笑顔に重なる。
髪色も違う。背丈だって、当然あの頃とは違う。
──だけど間違いない。
目の前の彼は、あの時の男の子だ。
「〝ファン一号くん〟……!」


