昼休みになり、私は日課のようになった美術準備室へ、今日も向かう。


だけど、錆びれた渡り廊下のど真ん中、なにもない場所でつと足を止めた。


……あ。お弁当を忘れた。


いつも重箱を抱えている両腕は、力なく体の横にぶら下がっているだけ。


今朝のことばかりが心に引っかかって、ぼーっとしてしまっていた。

今から教室にお弁当を取りに戻ろうにも、気が重い。


なんとなく冷たい風に吹かれたくて、私は渡り廊下を離脱し、上履きのまま旧校舎の裏庭に出た。


生い茂った緑の中、教室の前に取り付けられた石段を見つけて、そこに腰を下ろす。


控えめに吹きつける秋の風に、長い髪がゆらゆらとたなびく。


──迫り来る現実が、いやだ。


「はぁ……」


膝に頬杖をつき、風に溶かすように重いため息を吐き出す。

と、その時。


「ねえねえ、そこのかわいこちゃん。
なにしてるんだワン」


突然声が落ちてきてはっと顔をあげれば、頭上の窓から垂れ耳のイヌが顔を出していた。

パペットだ。イヌの体の下から、白い手首が見えている。