箸で口に運び、歯を噛み合わせた途端に、甘い卵焼きの味が広がる。


大が好きな、甘い卵焼き。

大は甘い卵焼きじゃなきゃ食べられないの。


「大……」


意図せず、ぽつりと声がこぼれた。


……大に食べてもらいたい。


もっと焦がさないように上達すればいい?

もっとたくさん作ればいい?


どうしたら、前みたいに笑ってもらえる?


胸を締めつける強さと同じくらいのそれで、机の上に置いた拳をぎゅっと握りしめた、その時。


「──美味そうな卵焼き」


不意に前方から聞こえて来た声に、私は反射的に顔を上げた。