「おい!いつまでゴミ出しに時間かけてんだよ」



今日は珍しくおじさんの機嫌が悪い。

また競馬が外れたのだろう。



「すいません。

今日はいつもより生ゴミが多くて」



「はぁ、言い訳してんじゃねえよ。
このクズが」



おじさんは店内の椅子を蹴った。

今は、閉店中なので客は誰もいない。


私は倒れた椅子を直しておじさんを見た。



「あぁぁああ
なんかお前見てるとムカつくんだよ」



おじさんはいつになく不機嫌だ。

おばさんに助けを求めようとすると

奥へ逃げて行った。


まただ。また始まる。

おじさんの暴力が。

おじさんの暴力に怯え続けて11年。

いつになったら私は解放されるのだろう。

もう嫌だ。こんな家、出て行きたい。


おじさんは容赦なく

私の顔に向かって右手を上げる。


くる...

私は目をつぶる。



あれ、くれはずの感覚が伝わらない。

なんで?私は恐る恐る顔を上げる。


そこには180センチはある男性が立っていた。


誰?


ちょうど影となって顔が見えない。



「誰だ!貴様」


私は男性に手を引かれ胸の中に入る。


あ...よく見るとこの人かっこいい。

黒く澄んだ目に

少しウェーブのかかった茶髪。

整った輪郭に血色感のある唇。

世の中で言うイケメンだ。


「私ですか、愛さんの婚約者です」


「は?婚約者なにを言ってるんだ。

愛に婚約者などいるわけない!

何かの間違いだろ!」


「いいえ、愛さんは僕の婚約者だと

いうことは間違えありません」


「なにを言ってやがる。

そんな事あるわけがない。

おい!美千代!ちょっと来い!」



おばさんが奥からやってくる。



「どうしたの、お父さん。

ん?誰この男性」



「愛の婚約者らしいんだが、

何か知らんか?」


「婚約者!?そんなの知らないわ」


「ほら、とっとと帰れ。

愛は婚約なんかした覚えはない」


「それはおかしいですねぇ。

僕は叔父様の指示の元に来たんですけど」


「叔父様?って誰だ」



とおじさんが言うと店にまた別の男性

が入ってきた。



「え!?」



入ってきた男性はなんと常連客の

井上さんだった。


「さっき、秋(あき)が話してた

叔父というのは私の事じゃ」


「は?でももしそうだとしても何故

じじいの言う通り愛を婚約させなきゃ

いけないだ」



とおじさんは言うと男性は



「じじいとは誰に向かって

言っているのですか」


「聞きゃ分かるだろ、じじいってのは

井上とかいうじじいの事だよ!」


「じじいですか...

何か勘違いされているようですが

この方は井上さんなどではございません。」


「え?何を言ってるんですか。

井上さんはうちの常連客なんですよ」


「皆さんの前では井上さんと

名乗っていたかもしれませんが

本名は南山 総二郎...

誰かお分りいただけますよね」



と男性は不敵な笑みを浮かべながら
言った。



「南山 総二郎って、あのかの有名な

南山財閥の社長の!?


まさかこのじじいが...じゃなくて

叔父様が社長ってどういう事だ」



とおじさんはかなり焦った様子を見せた。


「わしはの庶民の生活に興味があっての、

暇さえあればボディガードもつけずに

町をうろうろしておった。


たがある日、路上でコケて歩けなくなったわしを

通行人は見て見ぬ振りをして

助けようとしなかった。


諦めてボディガードを呼ぼうとした時

愛ちゃんが助けてくれたんじゃよ」



そういえば、そんな事もあったな。


確かあの時は買い出しの途中で

足を痛そうにしてたおじいさんがいたから

助けたこともあったっけ。


店に帰った時はさすがに遅すぎて

おばさんに怒られたけどね。



「その日を境に愛ちゃんを探すように
なった。

じゃがやっとの思いで見つけた先は

暴力をふるったりする最低な両親が

経営するラーメン屋じゃった」



ぎくっとする両親。

明らかに動揺している。



「そんな愛ちゃんを助けたくて

うちの孫、秋と婚約させる事にした」



「南山さんの言いたい事は分かりました。


ですが一番大切なのは

愛の意思ではないでしょうか。

愛は手塩にかけて育てた娘です。

簡単に引き受けるわけにはいきません」


おばさんは私を引き渡したくないのだろう。

おじさんも行くなと目で訴えてる。



「私は...