副社長の一目惚れフィアンセ

『そうそう、詩織が中学のときね…』

幾度となく聞いた『詩織』の話に適当にうんうんと頷いて、お母さんが満足して電話を切るまで待つ。

これは電話が来るたび毎回のことだ。

10分ほど話して電話を切ったあと、ずっと息を止めていたかのような苦しさから解放されて深い息を吐く。

お母さんと話すのは苦手だ。

『大事にしてあげたほうがいい』

副社長はああ言ったけど、お母さんの話に付き合うのは、お母さんを大事にしていることになるんだろうか。

あの人はもう、ずいぶん前から壊れているというのに。