副社長の一目惚れフィアンセ

不意に着信音が鳴って思考が遮られた。

スマホに手を伸ばし、光る画面に目をやる。

大きく表示された名前に憂鬱な気分になったけど、出ないわけにはいかない。

深呼吸をして画面をすっとスワイプした。

「もしもし」

『もしもし。元気?』

「元気だよ、お母さん」

声が少し裏返っているから、またアルコールが入ってるのだというのはすぐにわかった。

そもそもこの人が電話をしてくるときは、寂しくてお酒を飲んで、それでもまだ眠れない時が多い。

『仕事はちゃんとやってる?』

「うん」

『家事は?詩織と違ってあんたは雑だもんねえ』

「なんとかやってるよ。…あ、そうだ。お母さん」

『え?なに?』

「…ごめん。なんでもない。忘れちゃった」

婚約の話をしようと思ったけど、笑ってごまかした。

『もう、しっかりしてよ。あんたはホントにダメな子ねえ。詩織と大違い』

「そうだね、ごめん」

まだ報告するには早すぎる。

プロポーズの返事をしてまだ数十分しか経っていないのだ。

まだ夢の可能性だって捨てきれないし、明日になったら全部なかったことになっていてもおかしくない。