副社長の一目惚れフィアンセ

彼は頬杖をついたまま窓の外を眺め、んー、と小さく唸った。

私、副社長の機嫌を損ねたのかな。

不安でますます胃が痛くなる。

ご飯どころじゃないかもしれない。吐きそう。

少し間があって、副社長は穏やかにこちらに目を向けた。

「まずは自己紹介をしようか。俺は水嶋直斗。5月15日生まれで、もうすぐ33歳になる。
母子家庭で育ったけど、大学3年の時、死んだと聞いていた父親が製薬会社の社長であることを知らされた。
つまり母親は愛人だったってことだ。
社長は本妻と一人息子を交通事故で亡くし、俺に会社を継いでほしいと言ってきた。
さんざん迷った末に、結局会社に入った」

副社長はくっと苦笑いを浮かべる。

「だからフランス料理のマナーなんて、俺もこんな立場になるまで全く知らなかったよ」

リラックスとはいかないまでも、さっきより肩の力が抜けているのが自覚できる。

この人は大企業の副社長ではあるけど、元々は私と同じように一般的な家で暮らしてきた人なのだ。

だからなのかな。笑顔を見せるときの飾らない素朴な印象の理由は。