副社長の一目惚れフィアンセ

こうなったら覚悟を決めるしかない。

足元が見えるくらい思い切り頭を下げた。

「あのっ昨日は申し訳ありませんでした!ぶつかってしまったのに、謝罪もなくとても失礼なことをっ処分はいくらでも受けますっ減給処分でもなんでも…」

「君の」

私の早口を穏やかな声で遮った副社長。

「…名前と所属は?」

恐る恐る顔を上げると、彼はデスクに手をつき、少し体勢をかがめて私を覗き込んでいた。

決して怒っている顔ではない。

「えっと…」

パニックになった私は首からかけているIDカードを見せようと思ったけど、裏返っている上にねじれている。

それ以前に、手が震えていてうまくカードをつかめない。

「…総務部総務課福利厚生係、高野明里と申します」

カードを見せることを諦めて、声をうわずらせながら答える。

「昨日は悪かった。書類を見ながら歩いていたから、気づかなくて。大丈夫だったか?」

副社長は眉を寄せて問いかける。

副社長が謝ってる…?

「いえっ私が気づかずに勝手にぶつかってしまったんです。副社長こそお怪我はなかったでしょうか。本当に申し訳ありませんでした」

何度も頭を下げる私の上から、クスリと笑う声が降って来た。

「そんなに謝らないでくれ。俺は君を責めたくてここに呼び出したんじゃない」

「え…?」

恐る恐る顔を上げて、その姿に目が釘付けになった。

さっきまでのクールなイメージとはまるで違う。

目をくしゃっと細めて口角を上げ、やわらかい微笑みを浮かべている。