副社長の一目惚れフィアンセ

お盆と言えど、電車はそれなりに混み合っていて、スーツの黒じゃないカラフルな服の色が車内を染める。


『一目惚れに理由がいる?』


ナオはあの時そう言った。

だけど、ナオの一目惚れには理由があった。


『亡くなった恋人に似ていたから』


ナオは私が詩織の妹であることに気づかなかったのだ。

離婚で苗字が変わっていたから。

詩織とは歳が離れていたから。

私と会ったことがなかったから。

ナオは私を見ていたんじゃない。私の中に詩織を見ていたんだ。

『ナオ』って呼んでって言ったのもきっと、詩織がナオって呼んでいたからだったんだ。

お母さんの全否定と同じくらい…
ううん、それよりもずっと、私にとってはショックすぎて、今すぐにでも駅のホームから飛び降りて死んでしまいたい衝動に駆られる。

普通ならありえない一目惚れをされたのに、私は彼を簡単に信じてしまった。

何も気付かず、愚かにも簡単に彼に心を許してしまったのだ。