そうして母さんとおばーちゃんは、怯むように後退って病室を出た。
帰り際に、後で父さんを連れてくるから、きちんと話すから、と縋るような口調で言われたが、話すことなんてもうない。
………………母さんだった。
12年間。桜を苦しめ続けたのは。
そして、俺だったんだ。
12年間、桜が憎み続けた弟は。
何を言われても、それだけは動かない真実だ。
俺はゆるりと立ち上がって、腕に繋がる点滴を自らの手で引っこ抜いた。
そして、テレビ台の引き出しから、しまいっぱなしになっていた、倒れた日に着ていた私服を取り出して、着替えた。
財布と携帯。
必要最低限のものをポケットにしまい、俺は病室を後にした。
ここにはもう、居られないと思った。
だってここは、12年前に俺が、桜から奪った世界なのだから。



