────え…………?
その場の空気が固まるのを肌で感じた。
誰もが唖然とする中、李紅だけが依然として笑顔だ。
「な、何言って…………」
青い顔をして、雪奈がやっとのことでそう紡ぐ。
「だから、桜に嫌がらせするのをやめてほしいんです。お願いします」
李紅はそう言って、笑顔を引っ込め、いつになく真面目な顔をした。
「私………そんなこと……それに、私だけじゃ……」
「はい、分かってます。雪奈さんだけでしてる事じゃない。けど、雪奈さんを筆頭に始まったことなんでしょう?」
雪奈は何も言えずに、目を逸らした。
「だからきっと終わらせられるのも、雪奈さんだけだ。だから俺からは、雪奈さんにお願いするしかないんです」
だからお願いします、と李紅は雪奈に向かって頭を下げた。
「り、李紅……!?」
読めなすぎる李紅の行為に、私は思わずその細い腕を掴んで引き寄せた。
「どうゆうつもり!?」
そう耳打ちをすると、李紅は目を細めてそっと笑う。
「ごめん桜。掻き乱されたくないのは分かってるんだけど。そのままにだってしておけない」
「だ…だからって李紅が雪奈に頭下げることなんてないのに……!」
雪奈が私を嫌うのも、私がいじめに遭っているのも、李紅のせいじゃないのに。
「私、李紅にこんなことさせたくない…!」
「……こんなことしか出来ないんだ、俺には。勘弁してよ」
李紅は困ったように笑った。
やめて、そんな顔されたら、また何も言い返せない。
「悪いけど、俺をここまで強く動かしてるのは桜なんだ」
私が困り果てた顔をすると、李紅はそう言って優しく手を振りほどいた。
そして、まっすぐに雪奈に向き直す。



