【桜side】


下校時刻。昇降口のあたりが、やけに賑やかだった。

──まさか……。


こうゆう光景には心当たりがある。


そこかしこから「かわいー」だの「芸能人みたーい」だのと黄色い声が聞こえる。


ここ一週間あたりはすっかり鳴りを潜めていたから忘れかけていたけれど、こんな人集りを作る人は、私の知り合いには一人しか居ない。


「……………李紅」



渋々とその名前を呼ぶと、彼は振り向いて、いつものように満足そうにはにかんだ。


「桜!」

「李紅……体調はもういいの?」

「ん?もう平気。学校も行けたし」


そう言った李紅は確かに昨日よりか随分顔色が良くなったみたいで、ひとまず安心した。

「学校では待ち伏せしないで」っていつも言ってるのに、という悪態は、今回ばかりは飲み込むとしよう。


「それで、今日はどこ行くの?」

病み上がりなんだから近場にしなよ、と言う私の言葉を、李紅は適当に頷きながらきょろきょろと辺りを見渡す。


「李紅……?誰か探してるの?」

「うん。名前は分からないんだけど、俺がこうして桜を待ち伏せてれば向こうから来ると思って。……あ、ほら!」


そう言って李紅が嬉しそうに指差した方向に居た人物に、私は目を見開いた。


「雪…奈………」


頭の整理が追い付かない。まって、どうゆうこと?

李紅は……雪奈を待ってたの…?


「あの、すみませーん!」


呆然と立ち尽くす私にはお構い無しで、李紅は雪奈に駆け寄る。

雪奈の方も戸惑いを隠せないようで、警戒しながらも、微かに頬を赤らめている。


「雪奈さん、って言うんですね」

「え、ええ………」

「俺、雪奈さんと話がしたくて。ちょっと野次馬が多いですけど、ここで良いですか?」

「ええっ?!」

周囲がザワつく。これじゃまるで、告白をする前みたいだ。

雪奈の方はもうその気で、頬を染めてさりげなく前髪を整えている。



───李紅………何を言う気…?!

まさか本当に、雪奈のこと…………。



「単刀直入に言います。お願いがあるんです」

「な、なにかしら……」


雰囲気はすっかりそれっぽくなっていて、雪奈もその気だ。

私の心臓は、さっきからバクバクと煩い。


これは、嫉妬だ……。

私には言わせてもくれなかったその言葉を、李紅は今他の誰かに自ら言おうとしてる。よりによっても、雪奈。


気持ちの悪い感覚でぐるぐると頭をかき乱される中、李紅はいつものように、屈託のない満面の笑顔を見せて言った。



「桜に嫌がらせするの、やめてください」