30分位経った頃だろうか。

寝ているのか起きてるのかはよく分からないが、いよいよ熱が上がってきたらしい李紅の汗を拭ってやろうと、繋いだ手を離そうとした時、バーンと勢いよく玄関の扉が開いた音がした。

───やべ。

普通に考えて家族の誰かが帰宅したのだろう。困った、今俺がしているのはれっきとした不法侵入だ。

もう開き直って事情を話して謝ろうと洗面所を出ようとすると、すごいタイミングでドアが勢いよく開いた。


「李紅……!」


そう酷く青ざめながら李紅に駆け寄り、李紅がうっすらと瞼を持ち上げたことを確認してほっと胸を撫で下ろした彼女は、李紅の母親だろうか。母親の方は日本人みたいだが、それにしても若いし美人。


「あ…あの、俺」

恐る恐る声をかけると、李紅の母さんはあいつそっくりの顔で微笑んだ。

「あなたが飯田賢太郎くんね」

「な、なんで名前……」

「学校から私の携帯に連絡があったのよ。李紅が学校に来てなくて、電話で会話をした飯田くんって生徒さんが慌ててウチに向かったみたいだから、李紅に何かあったんじゃないか……って」

「ああ、なるほど…」

「それで用事を投げ出して帰ってきたの。李紅ってば………きっと朝は調子悪いの隠してたのね。あなたがついててくれたの?」

「まあ一応…………つっても、よくわかんなくて何にもしてやれなかったですけど…」

「気にしないで。傍に誰か居るだけでもきっと心強かったはずだわ。ね、李紅?」

そう言って李紅の栗毛色の髪を心底愛おしそうに撫でた。

李紅は小さく頷くと、安心したのかゆっくりとまた瞼を落とす。

「おやすみ、李紅……」

14歳の男をものの数秒で寝かしつけた母親の偉大さに唖然と立ち尽くしていると、李紅の母さんは優しく微笑んだ。

「ぜひお茶でも飲んでいって。でもその前に、李紅を寝室に運ぶから、少し手伝ってくれるかしら」

「あ、はいもちろん!」

そう言ってほぼ1人がかりで横抱きにした李紅は、有り得ないほどに軽くて、思わずゾッとした。