無視して、歩き出したら
ひとりの男がまた私の手を取った。
「やめて下さい……っ」
今度は振り払えなかった。
「おいおい、無視はねえだろ?」
「責任取れって言ってんの」
どうしよう。
しつこいタイプだ……。
通りかかる人も全くいなくって、
だんだん怖くなる。
逃げなくちゃ。
そう思った瞬間。
「おい」
その低い声は私の後ろから響いた。
え……?
振り返ってみると、
春先輩が視界いっぱいに映った。
「せんぱ、い……」
「邪魔、手離せよ」
相手を睨みつけながら言う先輩に
ドキンと胸が音を立てた。
「あ?テメェなんなんだよ!」
「殴られてぇのか?」
2人の言葉にも、表情を変えず言い放つ。
「あのさ、こんな所で女捕まえようとするとかダサいから」


