地面に叩きつける激しい雨の音に、
吹き止まない強い風に、

私は怯えていた。

小学校の玄関口、うずくまる小さな私が見える。



「寒いでしょ?大丈夫?」



突然の声と、差し出された手に驚いた私は顔を上げる。

そこには、ふわりと微笑む男の子の姿。



「……誰…?」



「すず」



すずと答えた彼は、なんだかグリム童話の絵本の中から出てきたみたいな、
整った顔をしていた。

大きな目に、ふわっとした髪。


そんな彼を男の子だと判断したのは、

その時クラスで流行っていた男の子向けのヒーローアニメの絵の靴を履いていたから。


それ以外は女の子みたいに見える。



「君は?」



「ゆう」



ゆう、かわいいね、
そう言ってまた微笑んだ。


見たことのない顔だった。

同じ学年じゃないのかもしれない。

まだ笑っている彼に聞く。



「すず…何年生?」

「3年、ゆうは?」

「2年…」


1つ上。

そのあと何を話したのかは覚えていない。



あれからすずはよく私と行動するようになった。

休み時間になれば私の教室に来たし、
放課後も一緒に帰った。



「すず、そのアニメ好きなの?」

「これ?んー、どうかな、好きかもね」

「わかんないの?」

「僕が選んだんじゃないからね」

「お母さん?」

「ゆう、質問攻めはよくないよ」


そう言って微笑むのはいつもの事。


ふわふわしてて、掴みどころのない不思議な彼に、

私は聞きたいことがたくさんあった。