その扉を開けた先は、まさしく────
────地獄画図
だった。
「……は?」
心なしか、平素より低い声が出たのは、致し方ない。ことだろう。
「会長…。」
「ゲッ、才崎…。お、おかえり?」
生徒会室の机に、山積みの書類・書類・書類!! ……の束。
「これは、一体どういうことでしょう」
そして何故、お一人なんですか、会長。
遂に役員達に見捨てられたんですか、会長。
「……他は、休憩に出した」
「つまり。この書類の束は、会長のサインが必要な書類が残ってるのですね」
「……ああ」
「どんだけ、サボってたんですか!?リコールされても文句言えませんよ!?」
「今、身に沁みて痛感している」
遠い目をしながら視線をさ迷わせた会長の目が、花恋さんを捉える。
「っ、花恋!」
ガタリと席を立つ会長。
私の背後で、花恋さんが半歩下がった。
「会長。まずは仕事です。その後でお話があります。あなたにも、花恋さんにも関わる大事なお話です。このままでは、彼女は居場所を失います」
「失う……?」
「当然でしょう。あなたは自分の影響力を理解するべきだ」
あ、と言葉に詰まった会長と、俯く花恋さん。
「はー。花恋さん。風紀が話を聞きたいと言ってました。1年の風紀委員の皆川が迎えに来ます。それから、橘先生は寮の食堂でお待ちになっていて下さい」
「……一色は?」
「この山を捌く手伝いを。それに戻ってきた役員達に説明もしなきゃですし。話も聞きたいですからね」
ああ、噂をすれば、皆川が来ましたね。
「久しぶり。才崎」
「ええ。ごきげんよう。皆川。急に悪かったわね」
「いや、助かったよ。この問題はなかなか手強かったから。他の役員は溜まる書類と仕事を捌くのに時間がとられて、根本の解決までいかなかったから」
「それなら、良いのです。花恋さん。正直なお気持ちを、あなたからの事実を、彼らにお話してください。今の学園でのあなたの立場は、会長をたぶらかした悪女です」
「「っ」」
あらあら。会長まで息を飲むとは。
本当に、周りが見えてなかったのですね。
「では、行きましょう。橘先生もどうぞ、案内します」
残念ながら、雅徳君は少しの間、何処かで待機してもらう必要がある。
仕方なさげに頷いた雅徳君は、私に無理をしないよう、釘を刺して立ち去った。
「……さて。」
生徒会室を振り返れば、ビクリと会長が肩を揺らした。
全く、情けない。いつもの俺様はどこに行ったんです。
「私も、あまり彼を待たせたくないのでね」
さっさと、やりますよ?
***
「歩きながらで、すみません。風紀委員の皆川と申します」
それは恐らく、俺に対する自己紹介なのだろう。
「ああ。橘 雅徳だ」
「才崎から最低限の情報は知らされてます。巻き込んでしまったようで、申し訳ありません」
「……いや。勝手に付いてきただけだ」
当事者の1人は、従妹だしな。
「才崎は、余程あなたを信頼してるようだ」
「…だと、良いんだが」
半歩先を歩く皆川君がチラリと肩越しに振り向く。
「もうすぐ、夕飯の時間になります。才崎はあなたに食事でも食べながら待っていて欲しいと思ってるのでしょう」
「……俺に、何か手伝えることは?」
すぐ前を向いた皆川君が、ふっ、と笑ったのが気配で分かった。
「では、少し。手伝ってもらいましょう」
ビクリと隣を歩く花恋の肩が揺れる。
そういえば、帰りはどうしよう。
なんて、場違いなことが浮かんだ。
無理をして、一色が倒れやしないか。
ずっと、気を張ってる様子の一色を思い出す。
(早く、)
早く、帰ろう。
一緒に。
***
「帰りたい」
思わず言葉が出てしまう程の量の紙の束。
「本当に全く手をつけなかったんですね。これで学園が回ってたのは、他の役員や風紀が踏ん張ってたからですよ」
「……反省してる」
「はぁ。飛び出してくれた花恋さんに感謝ですね」
口を動かしながらも、手は休めない。
「…花恋、は。俺のこと、何か言ってたか?」
「俺様。私のことなんか考えてない。自己中」
「ぐっ」
「否定出来ませんね。彼女が孤立してることにも気付けなかったんですから」
「……俺は、」
「なぜ、彼女なんです?」
いや、見た目が好みだった、ってのは分かるけど。
あくまで、それはきっかけに過ぎないはずだ。
「庇護欲そそる見た目に反して、意外と芯が強い」
どちらかと言うと、あれは気が強いって感じかな。
「俺にも容赦なく意見する」
まぁ、この学園内では貴重だね。
「飯が美味い」
「作ってもらったんですか」
「勝手に夕飯に邪魔した」
悪目立ちするから、食堂に行けなかったのか、彼女。可哀想に。
「俺を、邪険にしつつも、優しい」
「……」
「俺自身を、仲間以外で正面から見てくれた」
それが一番か。
「だったら、今度は会長が、ちゃんと彼女を見てあげてください」
「……そうだな」
***
「さて。それでは始める」
俺と花恋が連れて来られたのは、風紀委員室。らしい。
机を挟んで風紀委員長の向かいに座る花恋。
その2人を見守るように、俺と俺達を案内した皆川君が近くの椅子に座る。
室内に居るのは、俺達4人だ。
「待って下さい、委員長。新聞部が来ます」
「なに」
「才崎の指示ですよ。彼女の潔白、と言って良いのかは分かりませんが、風紀の訊問内容を記事に起こして欲しい、とね」
「……無駄な足掻きを。今さら、どんなに言葉を重ねても、彼女の言葉に生徒達が耳を貸すか。それに、訊問ではない。注意喚起と聴取だ」
「どのような反応が得られるか。それは分かりませんよ。ああ、来ましたね」
トントン、と軽いノックの後にドアが開いた。
「新聞部、1年の皆川です」
にっこり笑った少女は、皆川君とそっくりだった。
小さく驚いてる俺に、皆川君が頷く。
「双子の妹の舞桜です。才崎とは友人、ですね」
「初めまして、ドクター橘。一色がお世話になってますわ」
「……橘だ」
ツインテールを揺らしながら、空いてる椅子に座った彼女は、花恋の前にボイスレコーダーを置いた。
「では、委員長。始めて下さいませ」
若いのに、くっきり刻まれた眉間のしわを揉みながら、深いため息を吐いた風紀委員長が頷き、口を開いた。
***
ノックなしに、生徒会室のドアが開いた。
ドアをを開けた人物は、中で作業をしてる私を見つけて、固まる。
「は!?一色!?」
現れたのは、1年役員の壮司と薫だ。
「あら。久しぶりですわね、壮司、薫」
「ど、どういうことです!?なぜ一色が!?」
未だに入り口で固まってる薫を置いて、私の挨拶をあっさり無視した壮司が、掴みかかる勢いで会長に詰め寄った。
「別に、俺が呼んだ訳じゃない。勝手に来たんだ」
「今の一色は、学園の生徒じゃありません!」
このまま口論になるのを、ほっとく訳にはいかない。
「壮司。会長の言った通りよ。私が勝手に来たの。2人に知らせたら、止められると思ってね。ごめんなさい。風紀には話、通してあるから」
私の言葉に、壮司が諦めたように、ため息を吐いた。
「一色…。全く。変わってないな」
軽くなった空気に、薫も動き出す。
「本当ね。署名済みの書類、仕分けるわ。少し一色は休みなさい」
中に入って来た薫が、私の肩を叩いた。
私の幼なじみでもある2人は、私が無茶をすれば、倒れるのを知っている。
だから、私に連絡をしなかったし、今ここに居ることを怒ってる。
「今、副会長が他の委員会との間に入ってる。それがなければ、完全に夏休み前にはリコールでしたよ、兄さん」
「2年の先輩方も奔走してます。もう少ししたら戻って来ますわ、会長」
「うっ、分かってる。お前達にも悪かった」
「反省してるようで、何よりです」
珍しく、しおらしい会長をひとまず2人に任せ、私は花恋さんの様子を見に行くことにした。
────地獄画図
だった。
「……は?」
心なしか、平素より低い声が出たのは、致し方ない。ことだろう。
「会長…。」
「ゲッ、才崎…。お、おかえり?」
生徒会室の机に、山積みの書類・書類・書類!! ……の束。
「これは、一体どういうことでしょう」
そして何故、お一人なんですか、会長。
遂に役員達に見捨てられたんですか、会長。
「……他は、休憩に出した」
「つまり。この書類の束は、会長のサインが必要な書類が残ってるのですね」
「……ああ」
「どんだけ、サボってたんですか!?リコールされても文句言えませんよ!?」
「今、身に沁みて痛感している」
遠い目をしながら視線をさ迷わせた会長の目が、花恋さんを捉える。
「っ、花恋!」
ガタリと席を立つ会長。
私の背後で、花恋さんが半歩下がった。
「会長。まずは仕事です。その後でお話があります。あなたにも、花恋さんにも関わる大事なお話です。このままでは、彼女は居場所を失います」
「失う……?」
「当然でしょう。あなたは自分の影響力を理解するべきだ」
あ、と言葉に詰まった会長と、俯く花恋さん。
「はー。花恋さん。風紀が話を聞きたいと言ってました。1年の風紀委員の皆川が迎えに来ます。それから、橘先生は寮の食堂でお待ちになっていて下さい」
「……一色は?」
「この山を捌く手伝いを。それに戻ってきた役員達に説明もしなきゃですし。話も聞きたいですからね」
ああ、噂をすれば、皆川が来ましたね。
「久しぶり。才崎」
「ええ。ごきげんよう。皆川。急に悪かったわね」
「いや、助かったよ。この問題はなかなか手強かったから。他の役員は溜まる書類と仕事を捌くのに時間がとられて、根本の解決までいかなかったから」
「それなら、良いのです。花恋さん。正直なお気持ちを、あなたからの事実を、彼らにお話してください。今の学園でのあなたの立場は、会長をたぶらかした悪女です」
「「っ」」
あらあら。会長まで息を飲むとは。
本当に、周りが見えてなかったのですね。
「では、行きましょう。橘先生もどうぞ、案内します」
残念ながら、雅徳君は少しの間、何処かで待機してもらう必要がある。
仕方なさげに頷いた雅徳君は、私に無理をしないよう、釘を刺して立ち去った。
「……さて。」
生徒会室を振り返れば、ビクリと会長が肩を揺らした。
全く、情けない。いつもの俺様はどこに行ったんです。
「私も、あまり彼を待たせたくないのでね」
さっさと、やりますよ?
***
「歩きながらで、すみません。風紀委員の皆川と申します」
それは恐らく、俺に対する自己紹介なのだろう。
「ああ。橘 雅徳だ」
「才崎から最低限の情報は知らされてます。巻き込んでしまったようで、申し訳ありません」
「……いや。勝手に付いてきただけだ」
当事者の1人は、従妹だしな。
「才崎は、余程あなたを信頼してるようだ」
「…だと、良いんだが」
半歩先を歩く皆川君がチラリと肩越しに振り向く。
「もうすぐ、夕飯の時間になります。才崎はあなたに食事でも食べながら待っていて欲しいと思ってるのでしょう」
「……俺に、何か手伝えることは?」
すぐ前を向いた皆川君が、ふっ、と笑ったのが気配で分かった。
「では、少し。手伝ってもらいましょう」
ビクリと隣を歩く花恋の肩が揺れる。
そういえば、帰りはどうしよう。
なんて、場違いなことが浮かんだ。
無理をして、一色が倒れやしないか。
ずっと、気を張ってる様子の一色を思い出す。
(早く、)
早く、帰ろう。
一緒に。
***
「帰りたい」
思わず言葉が出てしまう程の量の紙の束。
「本当に全く手をつけなかったんですね。これで学園が回ってたのは、他の役員や風紀が踏ん張ってたからですよ」
「……反省してる」
「はぁ。飛び出してくれた花恋さんに感謝ですね」
口を動かしながらも、手は休めない。
「…花恋、は。俺のこと、何か言ってたか?」
「俺様。私のことなんか考えてない。自己中」
「ぐっ」
「否定出来ませんね。彼女が孤立してることにも気付けなかったんですから」
「……俺は、」
「なぜ、彼女なんです?」
いや、見た目が好みだった、ってのは分かるけど。
あくまで、それはきっかけに過ぎないはずだ。
「庇護欲そそる見た目に反して、意外と芯が強い」
どちらかと言うと、あれは気が強いって感じかな。
「俺にも容赦なく意見する」
まぁ、この学園内では貴重だね。
「飯が美味い」
「作ってもらったんですか」
「勝手に夕飯に邪魔した」
悪目立ちするから、食堂に行けなかったのか、彼女。可哀想に。
「俺を、邪険にしつつも、優しい」
「……」
「俺自身を、仲間以外で正面から見てくれた」
それが一番か。
「だったら、今度は会長が、ちゃんと彼女を見てあげてください」
「……そうだな」
***
「さて。それでは始める」
俺と花恋が連れて来られたのは、風紀委員室。らしい。
机を挟んで風紀委員長の向かいに座る花恋。
その2人を見守るように、俺と俺達を案内した皆川君が近くの椅子に座る。
室内に居るのは、俺達4人だ。
「待って下さい、委員長。新聞部が来ます」
「なに」
「才崎の指示ですよ。彼女の潔白、と言って良いのかは分かりませんが、風紀の訊問内容を記事に起こして欲しい、とね」
「……無駄な足掻きを。今さら、どんなに言葉を重ねても、彼女の言葉に生徒達が耳を貸すか。それに、訊問ではない。注意喚起と聴取だ」
「どのような反応が得られるか。それは分かりませんよ。ああ、来ましたね」
トントン、と軽いノックの後にドアが開いた。
「新聞部、1年の皆川です」
にっこり笑った少女は、皆川君とそっくりだった。
小さく驚いてる俺に、皆川君が頷く。
「双子の妹の舞桜です。才崎とは友人、ですね」
「初めまして、ドクター橘。一色がお世話になってますわ」
「……橘だ」
ツインテールを揺らしながら、空いてる椅子に座った彼女は、花恋の前にボイスレコーダーを置いた。
「では、委員長。始めて下さいませ」
若いのに、くっきり刻まれた眉間のしわを揉みながら、深いため息を吐いた風紀委員長が頷き、口を開いた。
***
ノックなしに、生徒会室のドアが開いた。
ドアをを開けた人物は、中で作業をしてる私を見つけて、固まる。
「は!?一色!?」
現れたのは、1年役員の壮司と薫だ。
「あら。久しぶりですわね、壮司、薫」
「ど、どういうことです!?なぜ一色が!?」
未だに入り口で固まってる薫を置いて、私の挨拶をあっさり無視した壮司が、掴みかかる勢いで会長に詰め寄った。
「別に、俺が呼んだ訳じゃない。勝手に来たんだ」
「今の一色は、学園の生徒じゃありません!」
このまま口論になるのを、ほっとく訳にはいかない。
「壮司。会長の言った通りよ。私が勝手に来たの。2人に知らせたら、止められると思ってね。ごめんなさい。風紀には話、通してあるから」
私の言葉に、壮司が諦めたように、ため息を吐いた。
「一色…。全く。変わってないな」
軽くなった空気に、薫も動き出す。
「本当ね。署名済みの書類、仕分けるわ。少し一色は休みなさい」
中に入って来た薫が、私の肩を叩いた。
私の幼なじみでもある2人は、私が無茶をすれば、倒れるのを知っている。
だから、私に連絡をしなかったし、今ここに居ることを怒ってる。
「今、副会長が他の委員会との間に入ってる。それがなければ、完全に夏休み前にはリコールでしたよ、兄さん」
「2年の先輩方も奔走してます。もう少ししたら戻って来ますわ、会長」
「うっ、分かってる。お前達にも悪かった」
「反省してるようで、何よりです」
珍しく、しおらしい会長をひとまず2人に任せ、私は花恋さんの様子を見に行くことにした。
