夕陽に染まった恋

私が中等部まで通ってた、私立不二徳学園は、生徒の自主性を重んじる学園だ。

故に、生徒の代表である生徒会と、学園の風紀を取り締まる風紀委員が、学園の主権を握っている。

なぜ、今その話を持ち出したかと言うと。


「会長…?」


現、高等部3年・生徒会長の、神崎壱弥先輩より着信が入っているからである。


私は去年、中等部の3年で生徒会副会長を務めた。当時の会長は、神崎先輩の2つ下の弟である、神崎壮司だ。


「もしもし。才崎です」

『遅い』

「申し訳ありませんわ。外出中でしたもので」

『…まぁ、良い。それより、お前が療養してる田舎に、ウチの生徒が帰省してないか?』


私がこっちの学校に進学するにあたって、表向きの理由は、祖母の田舎で療養する為、となっている。


「いくら会長と言えど、事情も説明せずに、そのような質問に答えられるとでも?」


さっき、すれ違った雅徳君の従妹(仮)のことだろうが、事情も知らないまま、個人情報を流す気はない。

ただでさえ、私は来た道を戻ってる最中なのだから。

実は私。悩むまでもなく、診療所の受付に財布を忘れたから、取りに戻る所なのだ。


電話の向こうで、舌打ちをする音が聞こえる。

相変わらず俺様のようだ。

ちなみに、弟の方はもっと常識人である。


『寮に花恋がいねーんだよ』

「かれんさん」


成る程。従妹(仮)の名前は、花恋と言うのか。


「会長。なぜ、その花恋さんの寮を訪ねたのです?今年の役員なのですか?」


『…違う。1年の役員は、壮司と、お前の代わりに藤堂だ』


基本、1年からは2人役員が選ばれる。

藤堂は、私の親友で、壮司の婚約者だ。
去年、中等部では、生徒会書記を務めた。


「あら。では、なぜ?私の記憶にない1年生ということは、今年の編入生でしょう?その彼女を何故あなたが追いかけ回しているのです?」


嫌な予感がする。

一瞬すれ違った彼女が花恋さんとして。

彼女は会長の好みど真ん中だ。


『うるせぇ。何だって良いだろ。居んのか?居ねーのか?どっちだ』


ああ、これは。


「会長。惚れたんですね」

『悪いか』

「いいえ?ただし、きちんと果たすべき責任を果たした上で、ならですけど」

『あ?』

「あなたのことですから、生徒会の仕事そっちのけで、その子にアピールしてるのでしょう?ダメですよ」

『……分かってる』

「どうせ、しつこくして逃げられた。と言った所でしょうか」

『っ』

「図星、ですか。はぁ。分かりましたわ。私の方でも確認しますので、学園を飛び出して探し回るなんて愚かな真似せず、大人しく仕事に集中して下さいな」


お願いだから、私の大事な仲間まで巻き込まないでください。


『…ああ、頼んだ』


ブツリと通話の切れたスマホをポケットに入れて、私は到着した橘診療所を見上げる。


会長の話はとりあえず置いておいて。

彼女の話と、学園の友人達から情報を集めた上で判断すべきだろう。


「はぁ。頭いたい」


自分の恋路だけに集中することは許されないみたいだ

















もう、すっかり他の患者さんは帰った後だ。


中に入れば、受付で作業をしている栗山さんと目が合った。


「一色ちゃん。良かった。連絡しようと思ってたの」

「ごめんなさい。お財布、忘れちゃいましたよね」

「後で雅徳君に届けてもらおうと思って、預けた所なの。ああ、それから」


ちょっと、と手招きする栗山さんに、素直に近寄る。


「噂をすれば、従妹ちゃん。帰ってきたわ」


やはり。


「今ね、雅徳君に会いに診察室に居るから、一色ちゃん、突撃してくると良いよ」


「……行ってきます」


悩むより、直接確認した方が早そうだ。


私は、診察室の扉に手を掛ける。


そして、ノックをせず、勢いよく扉を開けた。




「一色…?」



扉を開けたすぐそこに、雅徳君と、雅徳君に抱きつく女子高生。


その光景に、私の視界は、ふっ、と真っ暗になった。


「一色っ!!」


一瞬で膝から崩れ落ちた私の体が、床に打ち付けられる前に、雅徳君が間一髪で抱き止めて支える。


なんとか意識が保たれた私は視線を走らせた。


バチリ、と私を睨む彼女と目が合い、今度こそ私は、目を閉じた。