夕陽に染まった恋

季節の変わり目は、
体調を崩しやすいと言う。

そして、それは私も同じだ。


春から夏へと変わる───


──そう。


梅雨である。






*






「ゲホッ、」


風邪をひいたようだ。

起きた時から喉の痛み、頭痛に加え、身体の節々が痛かった。

しかし、熱を測れば、36,9℃


(まぁ、これくらいなら)


微熱であった為、私は学校に向かう。






午前の授業は特に体調が悪化することはなく、ずっとただ、ダルさが続いた。


が、


「才崎さん?大丈夫?」


どうやら、私の強くない身体は、クラスの共通認識となってしまったようだ。

隣の席の子が心配そうに私の顔を覗き込む。


ほとんど同じ小学校、中学校から進学してきてる生徒で成り立ってるこの学校で、余所からきた私は、大層目立つ。

そして、慣れない環境に、入学早々体調を崩していた私は、皆の中ではすっかり病弱キャラだ。


「だいじょ、ゲホッ、ゲホッ 、ぶっ」

「大丈夫じゃないよね!?」


咳き込む私の背中を慌てて擦ってくれる。


「ごめ、」

「いいから!」


ああ、本当、良い子。
隣の席の、田中ちゃん。


「才崎さん!無理しないで、早退しよ!」



周りに迷惑かけたり、うつすよりは、その方が良いかもしれない。


「…そうだね」


取り敢えず、保健室に行こうかな。






*






昼休みになったばかりの校内を、荷物を纏めた鞄を持って、歩く。

向かうは、保健室だ。


ノックをして、ドアを開けた。


「失礼しまーす」

「あら。才崎さん。…顔が赤いわね」


すっかり、保健室でも私は顔馴染みだ。



保健室の、養護教諭の栗山先生。

橘診療所の看護師、栗山さんのお姑さんでもある。


「はい。じゃあ、熱を測って下さい」


体温計を受け取り、制服のネクタイを外す。

この学校の制服は、ブレザーだ。


「今朝は熱、測った?」

「微熱でした」

「そう」


しばらくして、体温計がピピッと鳴った。


「「38度2分…」」


私と先生は体温計を見て、固まる。


「……今朝は、微熱でした」
「……上がるかもね、これから」


先生はすぐさま、保健室の電話を手に取り、職員室に内線をかけた。

「あ、養護教諭の栗山です。1年A組の担任の、……ええ。お願いします。……ああ、栗山です。才崎さん、発熱の為、早退します。……はい、はい。分かりました」


昼休み終了まで、あと40分。


私が自力で帰宅するのが困難な場合、担任の先生が送るという場合があるが、午後一の授業は確か、担任の先生の授業だ。


「才崎さん、取り敢えずベッドに横になってて」

「分かりました」


ベッドに向かった私を確認し、栗山先生は再び、どこかに電話をかけ始めた。

ちなみに、おばあちゃんは車の免許は既に返納している。

だから、おばあちゃんに迎えに来てもらうのは難しい。

いや。いざとなったら、タクシーか。



「あ、雅徳君?」


「……え?」


カーテン越しに聞こえたその名前を、私が聞き間違える訳がない。


「そうなのよ。すごい熱でね」


まさか。


「じゃあ、お願いね」


まさか。


栗山先生が椅子から立ち上がる音が聞こえる。

そして、カーテンを開けた。


「雅徳君が迎えに来るから」

「なんで!?」


何気にこのパターンは初めてだ。


「どうせ、橘の世話になるんでしょ?だったら、良いじゃない」

「よくな…っ、ゴホッ」

「ああ、ほら。騒ぐから」

「っ、」


誰のせいで!


「本当はね、予約状況の確認の電話だったんだけど」

「え?」

「雅徳君が迎えに来るって」

「なんで…?」

「まあ、橘先生も居られる日だからってのも、あるんでしょうけど」

ちなみに今の栗山先生の“橘先生”は、雅徳君のお父さんのことを指してる。

栗山先生はニッコリ笑った。


「余程、才崎さんが心配なのねぇ」

「っ!? ゲホッ、まっ、さかぁ、ゴホッ」


きっと違うよ。

その方がきっと、都合が良かっただけ。


そして、私個人への心配じゃなくて、ドクターとして、患者を心配してるだけ。



(私は、のりちゃんにとって、どんな存在なんだろう)