夕陽に染まった恋

季節の変わり目は、
体調を崩しやすいと言う。

そして、それは私も同じだ。


春から夏へと変わる───


──そう。


梅雨である。













「ゲホッ、」


風邪をひいたようだ。

起きた時から喉の痛み、頭痛に加え、身体の節々が痛かった。

しかし、熱を測れば、36,9℃


(まぁ、これくらいなら)


微熱であった為、私は学校に向かう。






午前の授業は特に体調が悪化することはなく、ずっとただ、ダルさが続いた。


が、


「才崎さん?大丈夫?」


どうやら、私の強くない身体は、クラスの共通認識となってしまったようだ。

隣の席の子が心配そうに私の顔を覗き込む。


ほとんど同じ小学校、中学校から進学してきてる生徒で成り立ってるこの学校で、余所からきた私は、大層目立つ。

そして、慣れない環境に、入学早々体調を崩していた私は、皆の中ではすっかり病弱キャラだ。


「だいじょ、ゲホッ、ゲホッ 、ぶっ」

「大丈夫じゃないよね!?」


咳き込む私の背中を慌てて擦ってくれる。


「ごめ、」

「いいから!」


ああ、本当、良い子。
隣の席の、田中ちゃん。


「才崎さん!無理しないで、早退しよ!」



周りに迷惑かけたり、うつすよりは、その方が良いかもしれない。


「…そうだね」


取り敢えず、保健室に行こうかな。













昼休みになったばかりの校内を、荷物を纏めた鞄を持って、歩く。

向かうは、保健室だ。


ノックをして、ドアを開けた。


「失礼しまーす」

「あら。才崎さん。…顔が赤いわね」


すっかり、保健室でも私は顔馴染みだ。



保健室の、養護教諭の栗山先生。

橘診療所の看護師、栗山さんのお姑さんでもある。


「はい。じゃあ、熱を測って下さい」


体温計を受け取り、制服のネクタイを外す。

この学校の制服は、ブレザーだ。


「今朝は熱、測った?」

「微熱でした」

「そう」


しばらくして、体温計がピピッと鳴った。


「「38度2分…」」


私と先生は体温計を見て、固まる。


「……今朝は、微熱でした」
「……上がるかもね、これから」


先生はすぐさま、保健室の電話を手に取り、職員室に内線をかけた。

「あ、養護教諭の栗山です。1年A組の担任の、……ええ。お願いします。……ああ、栗山です。才崎さん、発熱の為、早退します。……はい、はい。分かりました」


昼休み終了まで、あと40分。


私が自力で帰宅するのが困難な場合、担任の先生が送るという場合があるが、午後一の授業は確か、担任の先生の授業だ。


「才崎さん、取り敢えずベッドに横になってて」

「分かりました」


ベッドに向かった私を確認し、栗山先生は再び、どこかに電話をかけ始めた。

ちなみに、おばあちゃんは車の免許は既に返納している。

だから、おばあちゃんに迎えに来てもらうのは難しい。

いや。いざとなったら、タクシーか。



「あ、雅徳君?」


「……え?」


カーテン越しに聞こえたその名前を、私が聞き間違える訳がない。


「そうなのよ。すごい熱でね」


まさか。


「じゃあ、お願いね」


まさか。


栗山先生が椅子から立ち上がる音が聞こえる。

そして、カーテンを開けた。


「雅徳君が迎えに来るから」

「なんで!?」


何気にこのパターンは初めてだ。


「どうせ、橘の世話になるんでしょ?だったら、良いじゃない」

「よくな…っ、ゴホッ」

「ああ、ほら。騒ぐから」

「っ、」


誰のせいで!


「本当はね、予約状況の確認の電話だったんだけど」

「え?」

「雅徳君が迎えに来るって」

「なんで…?」

「まあ、橘先生も居られる日だからってのも、あるんでしょうけど」

ちなみに今の栗山先生の“橘先生”は、雅徳君のお父さんのことを指してる。

栗山先生はニッコリ笑った。


「余程、才崎さんが心配なのねぇ」

「っ!? ゲホッ、まっ、さかぁ、ゴホッ」


きっと違うよ。

その方がきっと、都合が良かっただけ。


そして、私個人への心配じゃなくて、ドクターとして、患者を心配してるだけ。



(私は、のりちゃんにとって、どんな存在なんだろう)